2025年4月24日発売の「Forbes JAPAN」6月号では、「多彩な新・起業家たち100人」にフォーカスした企画「NEXT 100」を特集。
地球規模から社会、地域まで多様化する課題に対して、アントレプレナーシップをもち、「自分たちのあり方」と「新手法」で挑む起業家やリーダーたちを「NEXT 100」と定義し、100人選出した。
ここでは、本号掲載の記事から「生命の誕生」をテーマに、バイオアートを制作するアートユニットLOM BABYの記事を紹介。青木寛和と浪岡拓也のふたりが私たちに提示する、「面白い未来」とは。
「モンスターハンター」や「ダンジョン飯」など、ゲームやアニメのなかによく登場する龍(ドラゴン)の肉。食べられるとしたら、どんな味がするだろうか──。
誰もが架空の食べ物だと思っていた「龍肉」をバイオテクノロジーで現実のものにしてみせたのが、青木寛和と浪岡拓也によるアートユニットLOM BABYだ。彼らの代表作のひとつであるこの「龍肉」は2024年8月に国立新美術館で初公開され、今春開催予定の試食会のチケットはわずか8分で完売するほど話題となった。
ほかにも、4月26日、27日にはJapan Expo Paris in Osaka 2025(EXPO2025大阪・関西万博 特別開催イベント)で、自己回復するスニーカー「Heal Sneaker」(レプリカ)や、宇宙人のDNAを埋め込んだ「人工宇宙人」を発表。バイオアートを通して私たちに“未来の議題”を提示する彼らは、いったい何者なのだろうか?
「バイオは、再生医療、製薬、ウイルス研究など現代社会の関心事と密接に結びついています。一方で、ほかの市場と比較して圧倒的にエンタメコンテンツやプロダクトに活用されていない領域です。AIなどのサイバー技術が成熟期を迎え、人々が『AIでできることは大体わかったな』と感じ始めている今、次の関心は“人工生命”に集まっています。『龍をつくれるかも』と聞けば、ワクワクしませんか?」(浪岡)
2022年に発足し「生命の誕生」をテーマに活動するLOM BABYのアート作品は、ウェットウェア的なアプローチで開発した人工生命を活用するものが多い。影響を受けたのはイギリスの現代美術家ダミアン・ハースト。「生と死」をテーマにした彼は、死んだ動物をホルムアルデヒドで保存・展示したシリーズで大きな議論を巻き起こした。学生時代からともに活動する浪岡と青木は、「“生と死”の次は“生命の誕生”について議論すべきでは」と意見が一致し、このテーマを扱うことに決めた。「バイオアートには、未来のテクノロジーを社会にプロモートする役割があると思っています。まず自由な発想でテクノロジーを活用したアート作品を制作し、“もうそろそろこういうことを考えたほうがいいよね”と社会に問いかける。その後テクノロジーが発展し法整備も進めば、実際に製品化・産業化でき具体的な社会変革にもつながります」(浪岡)
例えば「龍肉」に使われているテクノロジーは、DNA合成技術。作品ができるまでの過程はこうだ。まず「龍とは何か」を考え、ヘビやワニなどモデルになったとされる実在の生物を探し、物語などで描かれる龍の特徴も洗い出す。そして、それらのDNAデータ(オープンソース)を参考にしながら龍のDNAの設計図を構築。これを米国のバイオ企業の協力を得て化学的に合成し、完成した龍のDNAを植物由来のタンパク質を用いた細胞に注入・生成することで、「龍肉」が出現する。
