アート

2025.04.24 08:30

ゲームの世界の「龍肉」が現実に。 万博にも出展のLOM BABYとは何者か

この奇抜な試みは、SNSを中心に大きな話題を呼び、「ドラゴンイーターになれる!」「マグロの赤身と鶏ササミを混ぜたような味かな?」といった好奇心旺盛な反応が多数寄せられた。一方で、倫理面・安全面への懸念の声も上がった。「龍肉はそもそも食料自給率の低さや畜産による環境破壊、動物愛護といった社会課題を既存の生態系と調和しながら解決する試みです。倫理的問題や環境問題を回避した新しい食のあり方の提案なのです」(浪岡)

宇宙人のフィギュアの中に宇宙人のDNAカプセルを埋め込んだ作品「人工宇宙人」。
宇宙人のフィギュアの中に宇宙人のDNAカプセルを埋め込んだ作品「人工宇宙人」。

4月に万博で展示する「人工宇宙人」にも、DNA合成技術を使用。3Dプリンターで制作した約2mの宇宙人のフィギュアのなかに、宇宙空間での生存を想定したDNA設計に基づいたDNAカプセルを埋め込んだ作品だ。また、「Heal Sneaker」は再生医療の技術を活用し、スニーカーの擦り減った部分が自己再生されるというサステナブルな提案。現在の技術では生成液のなかにスニーカーがある状態でないと実現できないため万博ではレプリカの展示となるが、およそ10年先の未来にはアパレル企業からの商品化も見据えている。

再生医療の技術の活用でスニーカーの擦り減った部分が自己再生される「Heal Sneaker」。
再生医療の技術の活用でスニーカーの擦り減った部分が自己再生される「Heal Sneaker」。

彼らの強みは、大手化粧品メーカーの研究員がチームにジョインしていること。最先端の研究にアクセスできるからこそ、鑑賞者にリアルな「未来」を見せてくれるのだ。「ゴールは、龍を飼ったり、宇宙人と肩を組めたりする世界ですかね」(浪岡)。

LOM BABYが創造するバイオアートは、アニメやゲームなどのIPとも相性抜群。今後の動きとして、ゲーム作品とのコラボイベントの実施や、アニメキャラクターのDNA入りフィギュアの制作なども予定しており、日本が誇るIPとともに国内外での認知拡大を目指す。

「世界的なハイブランドのコレクションで“龍の皮”のバッグや“龍の鱗”のスニーカーが発表される──そんなふうに、今はまだ想像もできない新しい素材や体験を、この世界に生み出していきたいんです。自分たちがいなかった世界といた世界、そのふたつの世界の面白さをまったく違うものにしたい」(浪岡)

LOM BABYのふたりは、バイオアートで世界を面白い方向へと変えていく「救世主」なのかもしれない。


青木寛和◎1995年生まれ。テクノロジーとアートを越境する日本のケミカル・ブラザーズとして、新時代の文化を切りひらく。浪岡とともにブロックチェーン技術で妊娠・出産体験を提供するアートプロジェクトも企画。(写真右)

浪岡拓也◎1994年生まれ。2019年に青木とともにクリエイター・エンジニア・学者集団Transeedsを設立。テクノロジーと緻密な想像力を駆使し、現代の藤子・F・不二雄として、「人工生命」をテーマにした作品を通じて社会に新たな視点を提示する。(写真左)

※誌面にて青木氏のプロフィール内に掲載していた「自身の子どもの誕生を機に」は、浪岡氏のプロフィールの誤りでした。お詫びして訂正いたします。

文=堤 美佳子 取材・編集=田中友梨 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2025年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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