米国のドナルド・トランプ大統領は、国防総省に1兆ドル(約147兆円)の予算を求めた。これにより、政府の効率化を追求する新政権が、国防総省の支出増にも歯止めをかけるだろうと考えていた国民の期待は裏切られた。
この予算増の背景には何があるのだろうか? トランプ大統領は「軍隊は築かなければならないものであり、われわれは強くなければならない。なぜなら今、世の中には悪の勢力が数多く存在するからだ」と主張している。
米投資銀行TDコーウェンのアナリスト、ローマン・シュバイツァーによると、政権内や議会内に国防総省の支出抑制を求める声はあったものの、大統領の1兆ドルの提案は「少なくとも今のところは強硬派が勝利した」ことを意味する。だが、「悪の勢力」に対する漠然とした恐怖だけでは、国防総省の予算を増やす根拠としては弱い。今、求められているのは、国際情勢の予測が一層困難になる中で、軍事力によって何を達成でき、何を達成できないかを現実的に評価することだ。その上で、米国と同盟国の安全保障に対する喫緊の課題に対し、バランスの取れた政策を取らなければならない。
国防総省の予算を増額する一方で、米国の対外支援を担う国際開発局(USAID)を事実上解体したように、非軍事的な外交手段を削減するようなやり方が好ましくないことは、歴史が証明している。米ブラウン大学の研究によると、2001年の米同時多発テロ以降、米国は8兆ドル(約1200兆円)もの戦費を費やしながら、数十万人に及ぶ民間人の死や主要都市の不安定化をもたらし、多数の米軍兵士が身体的・精神的負傷に苦しむことになった。この悲惨な記録を振り返れば、米国の外交政策の主要な手段として、武力による威嚇が本当に有効なのか、再考が促されるだろう。
国防総省はかねてより、宿敵は中国だと主張してきた。同省は公式見解で、次世代兵器の開発で中国を圧倒しない限り、米国は中国によるアジアでの挑発的な行為を思いとどまらせることができず、さらに中国との戦争という最悪の事態を想定した場合、米国は勝利することはできないと説明している。こうした考え方は、米中関係を保ち、壊滅的な戦争を抑止する最も効果的な方法を無視している。その方法とは、台湾の地位を巡る共通認識を回復するほか、核戦力や人工知能(AI)駆動の兵器から気候変動、疫病のまん延、世界経済の不安定化に至るまで、相互の関心事について対話することだ。