Forbes JAPAN 2025年5月号は「新・ヒットの研究」特集。世の中で今、注目されている商品には、最先端のエッセンスが詰まっている。爆発的ヒット作の徹底分析と、次に来る消費トレンドの予測を通じて、これからのヒットの法則を探った。
「たべっ子どうぶつ」の再ヒットで、直近5年の売り上げが2桁成長を続けるギンビス。「攻め」と「守り」を巧みに使い分け、ファンを魅了し続ける3代目の目指す先は。
「100年続いたお菓子は、文化になる。江戸時代に広まったとらやの羊羹のように、1978年に誕生したたべっ子どうぶつも“日本の文化”といえるレベルに育てたい」
ギンビスの3代目・宮本周治が見据えるのは、世界に誇れる文化の醸成だ。中学卒業後に単身で渡米し学業を修めた後、香港の大手食品商社でキャリアを積んだ宮本は、99年に入社した家業・ギンビスの菓子に可能性を感じていた。
「国内外の市場を観察して、長く売れるお菓子の特徴は、飽きない味をもっていて、かつ同じ品質を守り続けていることだとわかりました。この点をクリアしている当社の商品は、手をかければ絶対にもっと伸びていくと信じていました」
まわりを見れば、ルマンド(ブルボン)、かっぱえびせん(カルビー)、ハッピーターン(亀田製菓)など、多くの戦後生まれの菓子がロングセラー商品となり、その中にたべっ子どうぶつも並んでいた。おいしく楽しく英語が学べるビスケットとして祖父の代に生まれた本商品は、子どもを中心に人気を集め、業績もゆるやかな右肩上がりを続けてきた。
しかし「マーケティングの法則では、20~30年たった商品は売り上げが下がっていくことが多い。30周年を過ぎた今こそ、新たな需要喚起が必要だ」と、2014年に代表取締役社長に就任した宮本は舵を切った。その結果、15年から売り上げは右肩上がり、20年からの5年間は2桁成長を続けることとなる。
数あるロングセラー商品のなかで、なぜたべっ子どうぶつに再び光が当たったのか。宮本がまず力を入れたのが、スーパーやGMS、コンビニ、ドラッグストア、100均など販売チャネルに合わせた商品開発だった。特に、コンビニ向けに展開したスタンドパウチタイプの商品は、オフィスで食べやすく大人も手に取りやすいと評判に。また、“思い出の味”であるバター味は変わらないように努力をしつつも、季節ごとに新フレーバーも導入して購買意欲を刺激した。
同時期に、大人世代のなかにパッケージに描かれたキャラクターのファンがいることに気が付く。「10年代にSNSが普及したことで、ファンの方々の存在が一目でわかるようになったんです。いつのまにか、ファンがファンを呼ぶかたちで広まっていて。そこで、皆さんにもっとお菓子を通して楽しんでほしいという気持ちから、タッチポイントを増やそうと考えました。ライセンスビジネスとして戦略的に始めたわけではありませんでした」
そこで、お菓子とグッズを販売するポップアップショップを20年から5年間で250店舗出店。さらに、23年からはたべっ子どうぶつの世界観を体験できる期間限定のイベント「たべっ子どうぶつLAND」を3度開催し25万人を動員した。現在グッズ化している全56種類のキャラクターから “推し”を見つけて楽しむ人も多く、推し活ブームも追い風になった。
「製菓会社なので、あくまでもお菓子の商品開発が最重要。ただ、グッズ化やコラボなどのご相談をいただくことも増えたので、“愛されるブランドをつくる”という軸を据えて、キャラクターIPの活用を積極的に進めています」