対砲兵レーダーの損失に加え、偵察ドローンの利用可能性が広がってきたことで、戦術の転換につながっている。英国のシンクタンクである歴史分析・紛争研究センター(CHACR)の最近のレポートによれば、ドローンが取って代わりつつある。
「総じて言えば、ロシアはレーダーや音響測距に頼っていた初期探知を無人機に切り替えている。(中略)無人機はウクライナ軍の大砲のマズルフラッシュ(砲口の閃光)やその熱シグネチャーを探知するために使用されている」(CHACR)
一方で、ロシア軍もウクライナ軍も、第一次世界大戦時には新しく、画期的だった技術にも回帰している。レポートにもある「音響測距」だ。
音を手がかりに
ウィリアム・ローレンス・ブラッグは、ノーベル物理学賞の受賞理由にもなったX線回折に関する業績でよく知られるが、1915年、もっと直接的な影響を与えるものを開発した。当時、英陸軍に勤務していたブラッグは、広く間隔をあけて設置したマイクロフォンを用いて、遠くの銃声をガルバノメーター(地震計のように振動をロール紙に書き出す装置)で自動記録した。ブラッグのマイクは古い弾薬箱を流用して作られ、風切音のような高周波の雑音を除去するために布で包まれていた。不細工な装置だとはいえ、数km離れた地点から10m以内の精度で射撃位置を特定できた。
音響システムはその後、基本的にレーダーに取って代わられた。レーダーは音響システムよりも探知距離が長く、精度も高く、もちろん広範囲にマイクを設置する必要もない。他方、現在は音響探知システムも、より高性能なマイク、そしてこれこそ重要だが、安価な処理能力と(AIの機械学習も多少取り入れた)優れたアルゴリズムのおかげで、昔よりも格段に低コストで優れたものになっている。
マイクはみずから電波や信号を出さないパッシブ(受動的)な装置なので、レーダーのように探知されることもない。
こうした音響探知システムはすでにいくつか導入されているが、ウクライナは今年2月、自国のVidar Systems(ヴィーダル・システムズ)社が開発した改良型システムを公表した。このシステムはすでに小規模ながら前線に配備され、量産も進められていると伝えられる。同社によると、システム一式は1人でも運搬可能なほど軽量で、マイク5個と中央コンピューターが含まれる。25km離れた射撃地点を三角測量で正確に導き出すことができ、AIを搭載したシステムは付近の爆発音のような戦場の背景雑音を除去する。
低コストにして効率的な音響測距は、ウクライナの「Delta(デルタ)」のような指揮統制システムとネットワーク化することもできる。Deltaはクラウドベースのシステムで、一般的なタブレット型端末を通じてあらゆるレベルの指揮官に情報を提供する。原理的にはこのシステムにより、ロシア軍の砲システムはすべて射撃後にすぐ位置が特定され、ウクライナ軍はそれを攻撃するためのリソースを割り当てることが可能だ。