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映画

2025.04.09 15:15

「ミッドサマー」と「ウィッカーマン」 カルト宗教映画が映すこの世界の限界

『ミッドサマー』UHD/Blu-ray/DVD発売中 発売・販売元:TCエンタテインメント (C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

だが、恋愛の破局というテーマを浮かび上がらせるための舞台が”異教”の共同体であることは、「北欧を舞台にしたホラーを」という依頼に応えたものに過ぎなかったとしても、結果としてやはり重要なメッセージ性を持ってしまっていると筆者は考える。

『ミッドサマー』UHD/Blu-ray/DVD発売中 発売・販売元:TCエンタテインメント (C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
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主人公ダニーは、ホルガ村での宗教体験で堰き止めていた感情を揺さぶられ、最後にメイクイーンを選ぶためのダンスバトルという「修行」を潜り抜け、感情の解放と共にやっと自らを開示し救済された。言い換えれば、家族を失い恋人に疎まれどこにも拠り所のない人間が、ある宗教に入信して自己肯定感を得たという話なのだ。

外部の世界から問題を抱えたままやって来て内的変革を果たすダニーのような人間の心理が、一定の説得力を持って描かれていることから、ホルガ村が存続のために外の世界を必要としつつ、外部で生まれた困難や矛盾の一部を引き受けている、と見ることができる。

普通の社会や一般常識から見れば狂気に満ちた「因習村」かもしれないが、そこで生きている人々にとっては伝統と信仰のもとに安定した場であり、何もかも失った人にとっては最後の救済の場となる。そうした空間を全否定することはできるのか?という極めて難しい問いを、この作品は孕んでいるのではないだろうか。

こうした観点から見て、『ウィッカーマン』と『ミッドサマー』で殺される人物の多く、特に男性にいくつもの共通点があるのは興味深い。

『ウィッカーマン』の主人公、警察官ニールは、ローワンという12歳の少女に対する匿名の捜索願いを受けて、スコットランドはハイランド諸島のサマーアイル島にやってくる。彼は村のあちこちで熱心な聞き取りをし、時にはズカズカと家の奥まで入り込む。パブでは村人たちの性的な歌に嫌悪感を示し、かなりあけすけな性教育をしていた小学校の教室に乗り込んで教師を糾弾し、ローワンの墓を探し出して暴かせる。一方で、敬虔なキリスト教徒ゆえ、セクシーなパブの娘の誘惑に乗るまいと、汗びっしょりで煩悶しているさまが滑稽だ。

ニール・ハウイー巡査を演じたエドワード・ウッドワード(Photo by Dove/Daily Express/Hulton Archive/Getty Images)
ニール・ハウイー巡査を演じたエドワード・ウッドワード(Photo by Dove/Daily Express/Hulton Archive/Getty Images)

つまりニールは、任務を遂行することしか頭になく、この奇妙な村の人々を軽蔑しており、警察の権威を傘に一般社会の常識を押し付けようとする一方、性的なものへの潔癖さが逆に欲望の抑圧ぶりを窺わせるといった、極めて凡庸な人物である。彼は最終的に、自らが祭りの生贄の三つの条件を満たしていることを、村長であるサマーアイル卿から告げられる。その条件とは、「王の代理」(警察官であること)、「童貞」(結婚するまでセックスしてはいけないという考えを持っている)、「愚か者」(祭りに「愚か者」の扮装で紛れ込んだ)だった。

『ミッドサマー』でダニーと同行した男子学生たちは、ニールに当てはめられたこれらの条件をそれぞれ少しずつ分担している。ドラッグとセックスにしか興味がなく、ホルガ村の祖先の木に立ちションするほど軽率で無礼なマークは、「愚か者」。文化人類学の論文を書くという大義名分で、禁じられた聖殿に忍び込んで聖典の写真を撮ろうとするジョシュは「王の代理」。クリスチャンは「童貞」ではないが、性的要素に注目され利用されるという点ではニールと同じだ。

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