地下鉄サリン事件から30年が過ぎたが、オウム真理教の後継団体には近年、事件以降に生まれた若者たちの入信が続いているという。一方、3月25日に出た旧統一教会への解散命令に対しては、ネットでは賛否両論が渦巻いている。
世界中に幅広く存在し、人々の生活の一部にも根を下ろしているさまざまな信仰体系。新興宗教（新宗教）は、世界宗教（キリスト教、イスラム教、仏教など世界に行き渡っている伝統宗教）に対して19世紀以降に生まれたものを指し、心霊術や神秘主義と深い関わりを持ち、反社会的と見做された団体に対しては「カルト」と言われることがある。
映画においても「カルト宗教」をモチーフにしたジャンルがあり、有名な事件に題材を取ったものも散見される。いわゆる「因習村」ものとも重なるこのジャンルの近年のヒットと言えば、スウェーデンの山村を舞台にした異色のフォークホラー『ミッドサマー』（アリ・アスター監督、2019）が挙げられる。この作品にプロットが似ているとして、往年のカルトムーヴィー『ウィッカーマン』（ロビン・ハーディ監督、1973）も再注目された。
オウム以降、日本では新興宗教への警戒感が高まったが、今回は「カルトは怖い、近づくな」以外の視点から、この二作品を比較してみたい。
都市部からはるばる片田舎の村にやってきた人間が、現代社会とは思えない謎の風習に驚き不安を覚えるうち、”異教”を信仰するその村が祭りの重要な要素として自分を必要としていたこと、今ここに至るまでのすべては最初から仕組まれていたことが最後に判明する‥‥という構成において、二作品はほぼ同型である。
注目すべき相違点は、主人公の迎える結末にある。『ウィッカーマン』の主人公は男性警察官で最終的には生贄にされるが、『ミッドサマー』の主人公の女子学生は、同行の男子学生が次々殺される中、村人らから祝福されて生き残り、祭りの最後の生贄に自分の恋人を指名する。
『ミッドサマー』は、明るく牧歌的なビジュアルや細部の凝った設定、謎解きのギミックが話題になったが、同時に、観客の女性の多くに「カタルシスがあった」「解放された気分になった」という感想が多かったのが特徴的だった。
それはこの作品が、家族の喪失から立ち直れずにいた若い女性が、自分を受け止めてくれない恋人と煮え切らない関係を続けているところに、優しく気遣ってくれる人が現れ、恋人の不実も目の当たりにしてやっと別れを決めるという、多くの女性の心理にフィットする内容になっていたからだ。主人公の感情の吐露に身体的に共鳴してくれる村娘たちの描写も、女性性と親和的である。
こうした解釈によるレビューは既にいくつかあり、アリ・アスター監督自身、自分の失恋体験を描写したものだと語っているのは、この映画のファンならよく知っていることだろう。
