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2026.10.29 11:00

現場に眠る「非凡」を見抜く──スピカコンサルティングが提示する、製造業再編の新たな方程式

技術、人材、設備、顧客基盤――。日本の製造業が培ってきた経営資源を、いかに次の成長へつなげるか。事業環境が変化するなか、その手段のひとつとなるのがM&Aだ。製造業の現場を長く見てきたスピカコンサルティングの藤川祐喜が、経営資源の再配置から考えるM&Aの可能性を語る。


「製造業の企業を見ていると、会社そのものが弱いというより、経営資源の一部が足りないために成長できないケースが多いと感じます」

スピカコンサルティング執行役員の藤川祐喜(以下、藤川)はそう話す。

技術はあるが営業力がない。仕事はあっても生産能力が足りない。設備を増強したくても資金や人材を確保できない。中堅・中小製造業が抱える課題は、企業によって異なる。

加えて、これまで仕事を支えてきた取引構造にも変化が生じている。例えば自動車産業では、完成車メーカーを頂点とする系列のなかで、部品メーカーが継続的に仕事を受注する構造が長く続いてきた。しかし、EV化による部品構成の変化や系列の見直しを背景に、従来の取引だけに頼らず、新たな顧客や市場を開拓する必要性が高まっている。

「以前は、どうやって次の仕事を取るかが経営者の大きな課題でした。その課題は今もありますが、さらにヒト・モノ・カネといった経営資源をどう確保するかが重要になっています」

藤川は大学院で工学を学び、卒業後はキーエンスへ入社。約10年間、技術営業として大小さまざまな工場に入り、省力化設備やDXシステムの導入などを支援してきた。そこで目にしたのは、高度な技術をもちながら、成長に必要な経営資源を十分に確保できていない中小製造業の姿だった。例えば売上5億円の企業が10億円を目指すなら、用地を確保して工場を建て、設備を導入し、それを動かす人材を採用する必要がある。

「製造業は売上を伸ばすにも多くのプロセスと時間を要します。M&Aであれば、設備や人材、顧客基盤など、成長に必要な経営資源を一度に獲得できる。時間を短縮できることは大きな価値だと思います」

ただし藤川は、同業だからという理由だけで相性が良いとは考えない。重要なのは、それぞれの企業に何が足りないのかを見極めることだ。

「高い技術を生かせる市場が限られている企業が、全国に営業基盤がある企業と一緒になれば、より広い市場へ技術を届けられる。また、受注があっても生産能力に限りがある場合は、設備投資を進められる企業と組むという選択肢もある。会社同士を単純に足し算するのではなく、互いの強みと弱みを補完し合うことが、製造業のM&Aでは重要です。もちろん、組み合わせが良ければM&Aが成功するわけではありません。成約後に両社の強みをどう活かし、どこを統合し、どの経営資源をどこに投下するかまで考える必要があります」

「普通」のなかにある企業価値を見抜く

では、何を補い合えば企業の成長につながるのか。その判断には、双方の強みと課題を正しく把握する必要がある。藤川が製造業のオーナーから譲渡の相談を受けた際、財務資料の確認とともに行うことがある。それは、必ず現場を訪れることだ。

「例えば、街の金属加工会社はどこも同じように見えるかもしれません。しかし、扱う材質や加工精度、量産か多品種少量生産かなど、各社が異なる強みをもっています。なかには20年、30年の経験をもつベテランが図面だけでは表現できないノウハウを有しているケースもあります」

藤川がこうした違いをとらえる背景には、キーエンス時代から数多くの製造現場を見てきた経験がある。工場では設備の種類や稼働状況に加え、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底状況や掲示物、社員の様子まで確認する。5Sが行き届いていることは、単に工場がきれいというだけでなく、現場の管理力や組織風土を知るひとつの手がかりとなる。さらに藤川が目を凝らすのが、経営者自身も気づいていない企業の強みだ。

「うちは普通の加工会社です、とおっしゃる経営者は少なくありません。しかし、実際に工場を訪れると、その企業ならではの技術や強みが見えてくる。長年当たり前に続けてきたからこそ、その価値をご自身では認識しづらいこともあります」

特定の素材を高い精度で加工できる技術や、長年にわたって品質を安定させてきた生産体制は、その企業にとっては日常でも、他社が簡単に再現できるものとは限らない。中小企業が大手メーカーから継続して仕事を任されている背景にも、そうした強みが隠れている。

「売り手から聞いたことをそのまま提案資料にまとめるだけでは、本当の価値を見つけることはできません。普通のなかにある非凡を見つけ、言語化する。それが製造業を専門にする私たちの役割だと思っています」

スピカコンサルティング執行役員 藤川祐喜
スピカコンサルティング執行役員 藤川祐喜

経営資源の補完が新たな成長を生む

経営資源を補い合うことで、企業はどう変わるのか。藤川が前職時代に支援した、プレス加工メーカー同士のM&Aが一例となる。

譲渡企業は高い技術力や設備、取引先をもちながら、財務面に課題を抱えていた。一方、買い手企業はEV関連部品の受注が増え、自社の生産能力だけでは対応が難しくなっていた。そこでM&Aによって、買い手企業の受注を譲渡企業の設備や人材で担える体制を構築。さらに、譲渡企業の福利厚生などの採用条件も整備され、経理担当者1人の募集に約100人の応募が集まったという。

「経営が変わり、会社が成長し、採用が生まれる。そして社員の人生も変わっていく。そこにM&Aの大きな価値があると思っています」

こうしたM&Aを成長につなげるには、将来を見据えた準備も欠かせない。藤川は、そのタイミングについて「M&Aや企業の成長を考えたその日から」と話す。

「売上を2倍にしたいなら、新工場も設備投資も営業人材も必要になります。まずは目指す姿を描き、足りない資源は何なのかを整理することから始める。とはいえ、すぐにM&Aをする必要はないと考えています。計画はいつでも修正できますから」

製造業の再編を考えるうえで、藤川は企業数の減少そのものを問題視しているわけではない。企業が廃業しても、そこで生まれていた仕事がすべてなくなるとは限らず、他社へ移ることもある。重要なのは、その過程で技術や人材が失われないことだ。

とりわけ製造業では、図面だけでは再現できない加工技術や、熟練者に蓄積されたノウハウも少なくない。事業が途絶えればその影響は一社にとどまらず、取引先を含むサプライチェーンに及ぶ可能性もある。

「企業数だけではなく、その企業がもつ技術、人材、取引基盤を次世代に引き継ぎ、より生産性の高い現場で生かしていくことが大切だと考えています」

藤川が目指すのは、売り手と買い手の双方が成長するためのM&Aだ。そして、その先に、日本の製造業全体の競争力向上を見据える。そのためには、経営資源の集約とともに、DXや自動化への投資を進め、一人当たりの付加価値を高めていく必要がある。企業の生産性と収益力が向上してこそ、働く人への還元も可能になる。

「日本のモノづくりは素晴らしい。ただ、素晴らしいから多少給料が低くても頑張ろうでは若い人は集まりません。製造業は面白いし、稼げる――。そう言われる産業にできたらうれしいですね」

製造業を取り巻く環境が大きく変わるなか、M&Aを事業承継だけでなく、経営資源を再配置し成長を生み出す一手になると強調する藤川。その視線は、一社一社の存続の先にある、日本のモノづくりの未来へと向けられている。

スピカコンサルティング
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ふじかわ・ゆうき◎スピカコンサルティング執行役員。大阪府出身。大阪府立大学大学院工学研究科修了後、2010年キーエンス入社。その後、日本M&Aセンターに入社し、業界再編部で製造業専門チームを立ち上げる。23年スピカコンサルティング入社、現在に至る。

Promoted by スピカコンサルティング | text by Motoki Honma │ photographs by Takayuki Abe │ edited by Aya Ohtou(CRAING)