「あのワイン、昔は安く買えたのに」「あのとき大量に買っていれば……」。冗談交じりにため息をつく古参ワインラバーを、筆者はこれまで何百人も見てきた。
実際、ブルゴーニュを筆頭に近年のワイン価格の高騰には目を見張るものがあり、オークションでは1本数百万円で落札されるワインもある。先日行われたTOP LOTオークションでは、「世界で最も高価なワイン」といわれるドメーヌ ルロワのミュジニー2015年が、過去最高額となる736万円(手数料込み)で落札されていた。
「ワイン×テクノロジー」が軸のワインテック事業
一方で、手持ちのワインにどれほどの資産価値があるのか、把握している人は少ないのではないだろうか。実際、個人で数年~数十年前に買ったワイン価格と現在の価格を比較するのはかなり難しい。高級ワインを多く持っていても、購入時の値段からの価値上昇を把握せず、「ワインは趣味だから」と利益度外視で楽しんでいる人も多いに違いない。
そんなアナログなワインの世界をアップデートすべく、「ワイン×テクノロジー」を軸にワインテック事業を展開しているのが、マネーフォワードベンチャーパートナーズや寺田倉庫などを株主に持つWineBankだ。
ワインの輸入販売を長年行ってきた1970年創業の札幌の老舗酒販店を、2020年に連続起業家の中野邦人氏がM&Aしたのち、ワインの小売やレストラン経営、ワインテック事業など「日本の既存のワイン流通をアップデートする」をミッションに、革新的なサービスを展開している。飲食事業には銀座のグランメゾン「アピシウス」も傘下に持ち、ファインワインにも精通した社内専門家を擁する。

ワイン資産運用を一括管理する画期的システム
同社が力を入れるワインテック事業の目玉が、ワイン資産をアプリで一括管理し、ワイン投資から管理・売却までを一元的にできるシステム「WineBank」だ。中野氏によると、過去20年間でワインの価格指標となるFine Wine Index1000(世界の全地域の中で最も取引されている7つの地域銘柄で構成されているLiv-exの指標)は4倍強に上昇している。
Knight Frank Wealth Reportのレポートによると、アートやアンティークコイン、クラシックカーなど高級実物投資対象品目のうち、ワインは2023年末までの10年間で146%のリターンを出している。これは希少ウイスキー(280%)に次いで2番目に高い数値だ。ワイン投資への関心は高まっており、「富裕層が1000万円以上ワインに投資するケースも。資産の一部をワインで保有している人も増えている」と中野氏は話す。
一方で、Liv-exの各地域指数に基づく2024年の価格上昇率によると、ブルゴーニュは-15.2%、シャンパーニュは-11.7%とワインの価格は下落傾向にあるが、同社の運用実績は+6.66%と好調だ。「日本のワイン市場では、長引くデフレによりこれまでワインの価格上昇が国際市場より緩やかだったこともあり、小売りや飲食店でのワイン価格は継続的に上昇している」と分析する。
ワイン投資に注目が集まるのは、時間の経過とともにより、ワインそのものが価値を増すためだ。ファインワインは熟成と共に味わいは深くなり、流通量減から希少価値も高くなる。実際、ブルゴーニュの伝説的醸造家アンリ・ジャイエのワインは、2006年の逝去以降、世の中から減り続ける「幻のワイン」となり、希少性は増すばかりだ。