2024年の株式新規公開(IPO)社数は86社と、ここ10年で2番目に少なかった。原因はIPOの際に選ぶグロース市場の低迷が原因だ。
この状況を東京証券取引所も憂慮しており、上場後のM&Aを後押しする動きも出ている。投資家にとっても出口戦略としてM&Aが注目されており、今後も増加することが見込まれる。そのなかで今回、17年にマザーズ市場に上場後、9社のM&Aを行い、グループ力を高めているマネーフォワード社長の辻庸介にM&Aの戦略とシナジーをもたらす秘訣を聞いた。
「売りたいから」じゃなく「いい会社だから」買う
「結局、“いい会社をM&Aする”。これに尽きると思うんですよね。経営ってやることがいっぱいあって、リソースも限られているじゃないですか。だからM&Aを行ってもその経営までは手がまわらないわけです。だったら、ビジネスモデルがよく、プロダクトもあり、優秀な経営者がいるいい会社をM&Aして、経営をそのまま任せればいい。そして、例えば、その会社がセールス、マーケティングが弱いのであれば、僕らがそこを支える座組をつくって、グループに入ってもらう」。これが、M&Aをこれまで成功させてきた秘訣だと辻は語る。
マネーフォワードが急成長を遂げた理由の一つが、M&Aで新たな局面を拓いてきたところにある。その戦略は明快で、「プロダクトラインナップの拡充」「地理的な拡大」、そして「事業領域の拡大」と、限られたリソースを3つの分野に絞り、グループ化した企業の経営陣にはそのまま経営を任せるやり方で成長を加速させてきた。
例えば、2017年の上場後すぐの、マネーフォワードにとって初めてのM&A案件であるクラビス(24年12月に吸収合併)は経理の記帳業務を自動化するサービスを提供する企業だが、当時、同じサービスをマネーフォワードでも手掛けていた。しかし、クラビスのサービスの方が優れていたためM&Aを行った。当然ながら、冒頭に述べられたとおり、いい会社であるので簡単にことは進まなかった。
うまくいった裏には、たまたま辻が、ある結婚式でクラビス社長の菅藤達也(当時)と久しぶりに会い、仕事の相談をするうちに意気投合したことが大きかったが、しかし、当時クラビスには他からもM&Aの話が持ち込まれていたという。では、なぜクラビスはマネーフォワードを選んだのか。辻は3つのポイントを挙げる。