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2025.03.01 15:15

ピアニストがロボットグローブ装着、「高速30分強化練習」で指速度向上

Getty Images(イラストはイメージ)

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今、革新的なピアノの練習方法がピアニストたちをざわめかせている。それは「グローブ型ロボット」を装着してのピアノ練習である。指を正確に動くように誘導するこのロボットは、東京のソニーコンピュータサイエンス研究所の研究者たちによって開発された(「Science Robotics」上の論文)。

実はある一定レベルに到達した熟練ピアニストたちにとって、新たなレベルへの到達は非常に難しい。なぜなら、一般的に行われる、自らの手のみで長時間じっくり練習するという方法では、かなりの努力にもかかわらず上達が鈍る「天井効果」にしばしばぶつかってしまうためだ。

「高速を体に覚え込ませる」

その「天井」を越える一助となることを期待されているのが今回のグローブ型ロボットである。各指の屈曲と伸展の両方をロボットが動かすことで、ピアニストは普段の自身の指のみでの練習では成し得ないほどの「高速」で指を動かすことができる。このような「高速を体に覚え込ませる」という、脳の可塑性を利用した感覚的アプローチによって、受動的なトレーニングであっても少しずつ運動機能を調整していくことができるという。

開発の際、ソニーの研究者たちは、ロボットによって指に「まだ経験したことのない速く正確な動き」をインプットさせることにより、指による練習の停滞期を乗り越えられるのではないかという仮説を立てた。そして、これを検証するため、熟練ピアニストに30分間ロボットを装着した状態で練習してもらい、指をさまざまな速度と複雑な運動パターンに慣れさせた。

トレーニングをしていない反対側の手にも効果

その仮説は的中した。 ピアニストの鍵盤をはじく速度はトレーニング後に向上し、その効果はトレーニングをしていないはずの反対側の手にまで及んだのである。このことは、ロボットによる受動的な練習の効果が、機器に直接触れる手だけにとどまらないことを明らかにした。

興味深いことに、この研究ではトレーニングの「特異性」が重要であることも判明した。 速く複雑なパターンでの指の運動経験が技能向上には不可欠であり、実際に、ゆっくりかつ単純な指の動かし方ではほとんど効果がみられなかったのである。脳を刺激すると皮質脊髄系に神経可塑的な変化が見られるというこの事実は、このグローブ型ロボットがピアニストたちの運動機能の発達に影響を与える証左ともなった。

また、今回の発見は音楽の領域を超えて応用できると言われている。今回、既にプロレベルまで磨かれたスキルをさらに向上させたい時に、ロボットによる高速トレーニングが有効であることを実証したことで、スポーツ、理学療法、そして複雑な運動を必要とするその他の分野での応用も期待できるという。

※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」2025年1月25日の記事から翻訳転載したものである)

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