社員みんなが「株主」になって経営参加
──持株会社制度を導入されたとのことですが、それはどのような仕組みになっていますか?
持株会をつくり、役員、部門長、管理職、5年以上勤務している方々に、株を保有してもらっています。現在、70%以上の株は役員や社員たちで保有している状況です。
一人の株数に制限を設け、定年後は株を持株会に戻し、また欲しい社員に譲ってもらう。自分たちの業績によって、定年までの間ずっと利回りを得られる仕組みにしました。
願いは、各自が経営に参加している意識が鮮明になり、株主としてアナライズされた情報を持てるようになることです。
「もっとこうしたらいいよね」と、みんなが意見を出し合える「持ち株総会」を設けています。
──家族経営企業では珍しい持株会社制度を導入したのは、どんな理由からですか?
今半が創業してから来年で130年、人形町今半になってから70年。今や当社は、我々の持ち物だけではないと認識しています。社長も社員も歴史や伝統を紡ぐバトンと同じ。我々が「所有する」という考え方からの変換です。
とにかく次の世代に紡いでいって、紡いだときの仲間、要するに社員の方々を幸せにする手法に変えていくため、3年前から持株会社制度を実行しました。
──社員の方々との信頼関係があってこそできることですね。
持株会のメンバーは、新卒からずっと関わっている方々や、中途で入って立派な要石のようになっている方々で、経営側と相互に信頼関係を築けています。やはり、信頼というのはこちら側から出さないとできないことです。今回の持株会も、信頼のひとつの象徴にしたいなと思っています。
兄と私で代表権を持ってから、「社員のみなさんともっとフェアでいたいね」とずっと話し合ってきました。私たちは「特権者」ではなく、常に同じ目標に向かっているチームであって、ただ役割が違うだけなのです。「全員が自分たちの人生を幸せにしていくことを使命として、チームメンバーを信頼し合ってやっていくような企業になりたいね」、と。青臭い話ですが(笑)。
事業の中心は「もてなし」の力
──今後、会社をどなたかに引き継ぐとすれば、どんな方に任せたいと考えていますか?
まず、我々の事業の価値として「もてなし」を真ん中に据えようとしています。たとえば、「おいしかったので誰かのためにもう1回買いたい」と思うのは、もてなしの商品の力です。「もてなし」を事業承継の一番大事な柱にしてほしいです。
「誰かのために何かしたい」と思うようなきっかけをたくさん作るという、人形町今半のブランドの価値を十分納得しながら事業を行うことができ、かつ、やりがいにできる人に事業承継したいですね。
髙岡 哲郎◎1961年3月東京都生まれ。1985年4月、株式会社人形町今半に入社。仕入れ、和食調理、精肉調理、販売を経て株式会社東観荘に出向、専務取締役支配人となる。1990年に米国コーネル大学PDPスクールに留学し、英国のホテルダイニングのオペレーションアドバイザーを務める。帰国後、人形町今半新宿ルミネ店取締役店長就任。1996年、人形町今半本店店長就任。2001年6月取締役副社長兼飲食部総支配人就任。2018年6月、代表取締役副社長兼営業本部長兼経営企画室長就任。2023年代表取締役社長に就任し、現在に至る。