同イベントレポートの第2回は、「これからのモビリティ価値―データか人か体験か」という題目のもと、プロドローン代表取締役社長の戸谷俊介とトヨタコネクティッド常務取締役の伊藤 誠、名古屋鉄道 事業創造部長の岩田知倫が語り合ったセッションの模様をレポートする。モデレーターは、スタートアップを支援するIDEAPOST代表取締役社長で名古屋大学客員准教授の平山雄太が務めた。
東海地区の主力産業であり、世界屈指の日本のモビリティ産業がもつ可能性と課題、そして未来について、自動車、鉄道、ドローンの専門家たちはどうとらえているのか。
ディスカッションは、一枚のスライド資料から始まった。国交省が発表した日本人の外出率の推移を表したグラフで、1987年から2021年までの30年余りで平日、休日とも10%超下がっている。テクノロジーが発達して人々がオンラインでできることが増える一方、「人が移動する機会が減っている事実を念頭に置き、議論を進めていきたい」と、平山は投げかけた。

変化する移動ニーズにどう応えるか、モビリティ企業の課題
平山:まずは岩田さん、モビリティの進化を考える上で、人の移動は今後どうなっていくと思いますか。岩田:スマホが普及し、手の中で買い物など色々なことができるようになったことで、移動そのものが減りました。あとはやはりコロナ禍で行動変容が起きました。在宅勤務が広がり、鉄道会社では定期券収入はコロナ禍前には戻らないという前提で経営が行われています。
一方、世界では移動している人は増えています。特に航空需要は右肩上がりです。アメリカのビックテックではオフィス回帰の動きもあり、やはり仕事は職場ですべきだという考え方もある。そのため今後、移動が急激に減少することはないと思っています。
これから人間の五感を補完していくテクノロジーが増えてくるとは思いますが、フィジカル空間が残る以上、まだまだ移動というものはなくならないでしょう。
例えば子どもの送り迎えや買い物弱者の買い物など、どうしてもやらなければいけないことについては、テクノロジーや自動化が人間の移動を代替するという考え方もあります。しかしやはりフィジカル空間において「自分が行きたいんだ」というニーズに、これからモビリティがどう応えていけるかというところが重要になると考えています。
平山:私もこの業界にいて、MaaS(Mobility as a Service)という言葉をおそらく世界に一番広めたであろう会社、フィンランド初のスタートアップ「MaaS Global」が昨年倒産したことが衝撃的でした。とはいえ、MaaSという概念が日本を含めこの先広がっていくと思っているのですが、伊藤さんの考えをお聞かせください。
伊藤:さきほどの移動に関するデータですが、日本のデータなので移動率が減少しているひとつの理由は、高齢化だと思います。移動したくてもできない人が増えていると見ています。そこを何とかしようと当社も新しい研究開発や実証を行っているのですが、「MaaS Global」の倒産にもつながる話として、マネタイズができないということです。高齢者のためだけの移動ソリューションではなかなか投資も集まらないし、採算もとれない。
もう少し対象を街全体に広げようとすると、より幅広いニーズに対応しなければなりません。そうなると自分たちの主力事業であるMaaSとコネクティッドという領域がある。しかし「(車をもっている人たちは)マイカーがあるから俺はいらないよ。別にみんなでシェアリングしなくてもいいよ」という話になる。このあたりが今、我々が苦労しているところです。