18年には転機が訪れ、水産業界全体に目が向くようになる。この年、漁業法の改正によって大企業や異業種の水産業への参入障壁が下がり、赤坂水産のような小規模な生産者の存在意義が問われ始めたのだ。「愛媛県は養殖大国ですが、零細企業が多く、最も売り上げのある養殖企業でも30億円程度。一方で、ノルウェーのサーモン養殖業者は1社で1兆円の売り上げがあります。1兆円を目指すには、製販分離の構造を壊し市場そのものを広げなくてはいけない」そう考えるようになった。
「製販分離構造」とは、生産(水産業者)と販売(浜仲買商や漁協)が分離していること。マダイにおいても、生産者が市場の需要ではなく生産余力に基づいて生産量を決めていたため、供給過多で市場価格が下落していた。そこで赤坂水産は、19年から低魚粉で育てたマダイを「白寿真鯛」としてブランド化し、全国の展示会に足を運んで新規顧客を開拓。自社の活魚運搬車で直接納品する体制を敷き、先陣を切ってBtoB、BtoCともに直販を進め、製販分離から脱却した。
最大の課題は、マダイの市場をいかに拡大するか。当時の販売先であった日本国内と韓国の市場はすでに飽和状態で、生産量を増やしても売れなかった。そこで赤坂は欧米を含む海外市場をリサーチ。キーワードは「サステナビリティ(持続可能性)」だと確信した。
「魚に求める価値観は国によって大きく異なっていて、特に欧米では『美味しさよりも持続可能性を重視する人が多い』という事実に衝撃を受けました」
現状、日本の養殖業は持続可能性が低い。例えばマダイは、1kg成長させるために約4kgのカタクチイワシが飼料の原料として必要になるため、養殖の拡大に伴う天然資源の減少が課題になっていた。そこで赤坂は飼料メーカーに相談し、魚粉などの水資源をまったく使用せず、ゴマなどの植物性タンパク質を原料としたサステナブルな餌を開発した。マダイが雑食魚だからこそ実現できる方法でもあった。
ただし、この餌はマダイに食べさせるのが難しかった。低魚粉飼料の給餌には成功していたが、完全植物性となると匂いが少ないため食いつきが悪く、人間が付きっきりになることに。「子どもにハンバーグを食べさせるのは簡単ですが、野菜ばかりの料理を喜んで食べてくれる子は少ないですよね。魚も同じなんです」。そこで導入したのが、IoTとAIを使ったスマート自動給餌機だ。マダイの習性や挙動をデータ化し、無駄な餌による海の汚れも防ぎながら効率的に養殖できるようになった。
こうして22年に誕生したのが植物性の餌のみで育った、魚粉“ゼロ”の「白寿真鯛0」。従来マダイは鮮度が重視されるため近場での消費が中心だったが、「白寿真鯛0」は臭みが少なく適切な処理をすれば10日ほど「熟成」させてもおいしく食べられる。この特徴こそが、輸送時間を要する海外市場への扉を開く鍵となった。
「日本でも世界でも人気のサーモンは、実は3日以上熟成させてから流通しています。“新鮮さ”だけがおいしさの基準ではないんです」
赤坂はさらなる市場拡大を目指し、米国で「白寿真鯛0」を味わえる飲食店の出店やインドなど欧米以外の市場への本格進出も見込む。「マダイと熟成魚の認知度を高めていくためには、料理ごと輸出していく必要があると考えています」