前半が100分、インターミッション(途中休憩)の15分を挟んで後半が100分と、計3時間35分の上映時間なのだが、100分の作品を2つ観るという体裁が取られている。
この100分(1時間40分)という時間が絶妙だ。エンタテインメントの都であるラスベガスのショーなどはたいてい100分くらいでフィナーレを迎えるし、人間の集中力が最も効果的に続くのもこのくらいの時間だと言われている。
映画「ブルータリスト」は、このような上映方式もさることながら、物語の展開においてもよくよく考えてつくられている。
前半では、第二次世界大戦下のホロコーストを生き延び、家族と引き離されながらも単身ハンガリーからアメリカに渡ってきた著名な建築家が、この新天地でさまざまな困難に戸惑いながらも自らの仕事を貫いていく姿が描かれていく。主人公である建築家の異文化との遭遇がメインのテーマとなっていると言ってもいい。
後半は、長年オーストリアで足止めされていた建築家の妻と姪が、艱難辛苦の末にようやくアメリカに到着する場面から始まる。そしてヨーロッパからアメリカへと逃れてきた濃密な家族のストーリーと「美の核芯」と題された主人公の建築への強い意思が描かれていく。

1つの作品でありながら、2つの部分に分けられているせいか(間に休憩も挟まれている)、上映時間の3時間35分はまったく長くは感じられない。もちろん波乱に満ちた物語自体の面白さもあり、その没入感から興味を持続したままエンドマークまで連れていってくれるのだ。
「ブルータリスト」タイトルの由来
「ブルータリスト」の主人公は、ハンガリー生まれのユダヤ人建築家ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)。モダニズムの源流となったドイツのバウハウスで学び、祖国でも数々の実績を積み重ねてきた著名な建築家だった。ラースローは、第二次世界大戦下でのホロコーストを生き延びたが、妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)や姪のジョーフィア(ラフィー・キャシディ)とは生き別れとなってしまう。
戦争が終わり、単身でアメリカに渡ることになったラースローは、ペンシルバニアで家具店を営む従兄弟のところに身を寄せる。才能豊かな建築家に任されたのは、とりあえずは家具の設計だった。オーストリアで足止めされている妻とは、手紙で連絡を取り合っていたのだが、事態は一向に進展しなかった。
