あるとき地元の裕福な実業家ハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアーズ)の息子から、書斎に新たな図書室を設置することを頼まれたラースローは、バウハウス仕込みの機能性を重視したモダンな図書室を完成させる。

富豪の息子の依頼でラースローがつくりあげた図書室はバウハウス仕込みのモダンなものだった © DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures
しかし、それを見た父親のハリソンは激怒する。その後図書室が雑誌に取り上げられたことで、ラースローの輝かしい経歴に気づく。ハリソンは、妻と姪の早期アメリカ移住を実現させることと引き換えに、ラースローに地元の人たちが集う多目的な礼拝堂の設計と建設を依頼する。
ラースローはハリソンの邸宅内に居を移して、礼拝堂の建設にあたるが、建築家としての信念を貫く彼の前には多くの困難が立ちはだかっていた。
前半の100分はこのように展開していくのだが、この間、ラースローの麻薬使用や性的嗜好の描写などもあり、1人の建築家の多面的な内面も描かれていく。

後半は前述のとおり、妻と姪がようやくアメリカに到着したところから始まる。妻のエルジェーベトはかつてイギリスのオックスフォード大学で学び、母国では国際問題関係の記者として華々しく活躍していたのだが、ひさしぶりにラースローと会う彼女の状況は一変していた……。

「ブルータリスト」というタイトルは、第二次世界大戦後の1950年代に広まった建築様式である「ブルータリズム(brutalism)」に由来している。
ブルータリズムの建築物は、資材には打放しコンクリートなどを多用し、外観は装飾を排して荒々しくシンプルなものが多い。代表的な建築家にはル・コルビュジェなどが挙げられる。
ラースローが実業家のハリソンから依頼されて建設する礼拝堂もブルータリズムの色濃い建築物だ。そういう意味で言えば、「ブルータリスト」を観ていて第二次世界大戦後の建築史に興味が湧くのも不思議ではない。
実は、ブルータリズムについては2010年代後半から見直しの機運が起こっている。その流れに待ったをかけるかのように、トランプ大統領は最初の政権時に、「政府の建物は”美しい建築”にしなければならない」という大統領令も出していた。
見方によってはコンクリートの塊のようにも見えるブルータリズムの建物が美しいか美しくないかの議論はさておき、このような近年の世の中の流れのなかで、「ブルータリスト」という作品がつくられたことは興味深い。第二次世界大戦後の世界を描いてはいるが、そういう意味ではいまの時代にも通じるような作品と言ってもいいかもしれない。