アカデミー賞で10部門ノミネート
「ブルータリスト」の監督はブラディ・コーベットだ。1988年の生まれでアメリカのアリゾナ州出身。これまで俳優や監督、脚本家として映画界で活躍してきた。初の長編映画監督作品「シークレット・オブ・モンスター」(2015年)が評判を呼び、2作目の「ポップスター」(2018年)もヴェネツィア国際映画祭で高い評価を受けた。
前者が第一次世界大戦後のファシズムの嵐が吹き荒れるヨーロッパを、後者はアメリカ国内での銃乱射事件や9.11同時多発テロを、いずれも物語の背景として採り入れており、「ブルータリスト」でも1945年から1980年に至る戦後世界を踏まえて、主人公のアメリカンドリームへの挑戦が描かれていく。
「私たちは第二次大戦後の心理状況とブルータリズムを含む戦後の建築洋式はリンクしていると考えました。劇中で建築される建物は、ラースロー・トートが30年間抱えていたトラウマを具現化したものであり、2つの世界大戦を経た人間が生み出した予期せぬ産物なのです」
ブラディ・コーベット監督はこのように語るが、そもそも主人公のラースローという存在は、このような時代背景を重要視する作品によくある「事実に基づいたもの」ではなく、監督たちがつくりあげた架空の人物だ。
もちろん当時の状況を建築史家などにも綿密に取材して、リサーチを重ねたうえで、より自由に、彫りの深い人物像をつくりあげている。登場人物たちはいずれも心に闇を抱えており、それゆえに興味深い人間ドラマが展開されていく。これが215分間にわたる物語への没入感を生み出していると言ってもよい。
建築を扱った作品でもあるためか、作中で展開される映像も見事だ。観る者を飽きさせることなく、次々と印象的な場面が紡ぎ出されていく。丘の上に建てられていくブルータリズムを象徴する礼拝堂はもちろんのこと、特に印象に残るのは、建設に使用する大理石を求めてイタリア・カッラーラの石切り場にラースローとハリソンが赴くシーンだ。
真っ白い巨大な採石場を背景にした映像は、その後に進展する彼らの新たな関係を暗示しているようにも思える。監督自身も、作品中に映し出される風景は登場人物の内面を象徴していると言明しているが、このあたりも厭きることなく作品へと惹きつけられる魅力の1つかもしれない。
ラースローは「ブルータリズム」の色濃い礼拝堂の建設を進めていく© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures映画『ブルータリスト』は2月21日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
「ブルターリスト」は3月2日(現地時間)に発表される第97回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされている。昨年の作品賞に輝いた「オッペンハイマー」も上映時間180分の長尺作品だったが、「ブルータリスト」はそれを上回る215分。大作感も半端なく、目下のところ作品賞の本命とも目されている。
連載 : シネマ未来鏡
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