2025年2月25日発売の「Forbes JAPAN」4月号第二特集では、「地銀・信金ベストマッチング事例集」を掲載。地域経済のキープレイヤーである地方銀行や地域金融機関によるさまざまな協業のケーススタディを通して、地域から始まる新時代への希望のヒントを探っていく。
各地の地銀に新たな出番が誕生した。事業承継や人材難を解決していく、新たな国づくりとも言えるユニークな事業だ。名づけて「エリア共和国」。M&Aのイメージを打ち壊すものであり、ほかのエリアには絶対に負けないビジネスである。
回転寿司の「スシロー」を売り上げ日本一にしたことで知られる加藤智治のもとに、人生を決定づけるLINEのメッセージが送られてきたのは、2020年のことだった。
〈加藤さんのキャリアであれば、アメリカのダナハーのモデルを日本でもやれるのではないでしょうか〉
送り主は、前夜、寿司を一緒に食べた若い投資家である。「加藤さんのキャリア」とは、加藤が外資系金融やコンサルタントというキャリアを経て、08年、33歳の時に回転寿司のスシローに転身してからの活躍を指す。スシローを業界ナンバーワンにすると、11年に加藤はテレビ番組「カンブリア宮殿」で取り上げられるほどになり、退職後はスポーツ用品のゼビオの社長を任されていた。
彼は「日本の食は世界に通用するコンテンツ」という思いから、前夜、投資家に「食の分野で起業したい」と決意表明をしていた。その投資家から送られてきたLINEに、加藤は首をかしげてこう打ち返した。
「ダナハーって何ですか?」
──それから4年後の24年、舞台は変わって経済産業省。この年、同省は「中堅企業元年」を打ち出していた。中堅企業とは、中小企業より規模が大きい従業員2000人以下の会社である。この中堅企業が地域をけん引し、積極的な賃上げや投資、M&Aによってイノベーションと地域活性化を行うように促す政策だ。この時、奇しくも省内にこんな声が上がった。
「ダナハーを研究すべきではないか」
前出の加藤も「ダナハー」をモデルに、コロナ禍のさなかの21年に「まん福ホールディングス」(以下、まん福)を起業している。ダナハーの名前が政府内からも浮上したのは、偶然というよりも、今の日本にドンピシャにはまる「ベストな方法」だからだろう。
ダナハーを目指した加藤らの「まん福」は、のちに自社のモデルを進化させてこう表現するようになる。「エリア共和国型」。彼らが考えるこの事業モデルを紹介していこう。
進化版「ダナハーモデル」
米ワシントンDCに本社を構えるダナハー(Danaher Corporation)は、従業員数6万3000人、売り上げ3兆円を超えるグローバル企業である。ライフサイエンスや医療診断機器の製造など企業向けのソリューションを提供する。この会社の最大の特徴は約30年間で400社以上のM&Aを成功させていることだ。売却を目的とした企業買収ではなく、「ダナハー・ビジネス・システム(以下、DBS)」という独自の経営手法により、市場を上回る成長と利益をあげて、その業界のトップクラスの企業にしている。
もとはスティーブとミッチェルのレイルズ兄弟が経営する不動産会社だったが、1984年に現在の社名に変更。「不動産よりも儲かる」と気づき、「企業をつくる企業」として経営改善によって名をはせていく。その原点が、実はトヨタ自動車の手法「カイゼン」を取り入れたことだ。
88年、グループ企業のひとつである、トラック用ブレーキの製造会社が、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一の弟子ふたりを工場に招待した。このふたりのトヨタ社員は次々と問題点を指摘し、工場のレイアウトと生産プロセスを変えた。これが業績向上につながったことで、同社は「カイゼン」文化を導入。DBSは主に次の4つの原則をサポートしていく。人材、計画、プロセス、パフォーマンスだ。