まず、インプロセス時間やトランザクションプロセスを削減するため、買収後にマネジャーを1週間のトレーニングキャンプで鍛えて、「カイゼン」文化を浸透させる。そうして、「世界クラスの品質、納品、コストのベンチマークを目指し、優れた顧客満足度と収益性の高い成長を実現するための手段を提供」(ハーバード・ビジネス・スクールのバーナット・N・アランド教授らの研究)するという。全社員が「カイゼン」マインドになるよう仕組み化するのだ。こうして年平均30%の成長を達成し、時価総額は98年から現在までに27倍になっている。DBSという強い経営メソッドを軸にしたロールアップ型M&Aといえるだろう。経済産業省が各地域で売り上げ100億円を超える中核企業を増やし、M&Aを推進しようという政策に近い。
加藤が「まん福」を起業して最初に目指したのも、ロールアップ型のM&Aだった。同業他社や類似業種を買収統合して、スケールアップを狙う手法である。最近ではゲームセンターから総合エンタメ企業になったGENDAやITソリューションのSHIFTが有名だ。外食チェーンでも見受けられる。
加藤が考えたのは生産地の川上から販売流通の川下までを垂直統合するというものだった。さらに、「日本のエンタメと食は世界で通用する」という考えから、グローバルが視野にあった。だが、食の世界はあまりに課題が多い。列挙してみると、
1. 高齢化、後継者不足、労働確保の困難
小規模事業者が多く、若年層が就労しにくい。常に人手不足の業界になっている。
2. 原材料費や物流費の高騰
22年と23年は肥料が過去最高の値上がりになるなど、農畜産業の生産資材が高騰。物流費の値上げも経営を圧迫。
3. 低い利益率
長年、中間コストの複雑さや、小売りの価格競争が原因といわれ続けている。
日本の「食」は世界で通用する高いレベルと評価されながらも、「儲からない」産業といわれる。しかも、社会課題である「後継者難」は深刻である。
加藤は、肉や魚などの食材ごとに、川上・川中・川下のバリューチェーンを統合し、そのマトリックスを埋めていくかたちで事業承継を行うことにした。
「ダナハーの成功要因は、DBSというメソッドです。社内の心臓部であるM&A専任チームがデューデリジェンスや売り手企業との長期間にわたる話し合い、信頼関係の構築、統合後のPMI、その後のモニタリングまでやっています。ダナハーを大先輩として、『まん福メソッド』の標準化を目指しました」
これを起業後のフェーズ1とした。ところが課題にぶつかった。「シナジーが限定的だった」という。
エリアごとの共和国に分ける意味
シナジー以前に物流コストの問題があった。例えば、肉の産地と焼肉店の距離が離れていれば、物流コストがかかる。九州や北海道などの生産地と、一大消費地の東京や大阪は距離がかけ離れている。
次に、垂直統合といっても、一歩間違えば、地方疲弊パターンに陥ることになる。これまでも一大消費地である東京の大手資本が地方の生産地を組み込むと、一見、安定供給は可能となった。しかし、安定的に量が確保される一方で、小売りや大手資本のメーカーからは生産コストの抑制を求められる。生産側は価格決定権のない「東京の下請け」という構図になり、地域の付加価値を上げるどころか、経営は左右される。