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経営・戦略

2025.02.28 13:30

スシローを日本一にした起業家が挑む M&A&地銀の「エリア共和国」って何だ?

加藤智治|まん福ホールディングス代表取締役社長

「面」で人を育てるプロセス

肉の生産高で優位な南九州に対して、北海道が圧倒的優位なものをご存じだろうか。日本の生産高のうち、北海道が全体の54%を占めるのはイクラ、数の子、たらこといった魚卵系だ。また、58%を占めるのが、ウニの漁獲である。つまり、寿司ネタは北海道が2位以下に大きく差をつけている。そこで加藤は「北海道寿司共和国」をつくった。

スシローを経験している加藤は、次のような構想を立てた。「回転寿司は大手を中心にした設備産業という一面があります。大箱なので設備投資がかかる。機械化・自動化で生産性をあげていくスタイルは、大手の回転寿司チェーンには勝てません。それよりも職人さんが手で握る寿司の価値は大きいと思いました。だから、立ち寿司と宅配寿司がいいと考えたのです」

ここで活躍する地銀が北洋銀行と、早くから北海道に進出していた秋田銀行だった。こうして北洋銀行をメインバンクにしている宅配寿司の「札幌海鮮丸」、そして札幌市内にある人気の本格寿司「寿し心なかむら」が共和国の中核となった。食材の共同仕入れ以外にもうひとつ、シナジーがある。

札幌海鮮丸は出前専門で、全国に66店舗を展開。宅配寿司では全国1位の売上高を誇る。また、会社行事や会合などに寿司職人を派遣して、その場で握る「出張寿司」を行っている。もとは対面で握る職人の集団であり、職人の存在に価値を置いている。

宅配は対面になる機会が少ないため、「なかむら」で人材交流を図りながら、対面寿司の感覚を忘れないようにする。こうして職人の価値を上げていけば、育成はもちろん「出張寿司」を拡張できる。どこの国の料理も「シェフ」の名前で価値が高まるように、育成システムを確立できれば、人をブランド化して世界展開も夢ではなくなる。ダナハーのDBSが人材育成で業界ナンバーワンをつくり続けるプロセスと似ている。また、「面」で人を育てることは、寿司職人に限らず、ほかの産業でも可能だろう。

余談だが、加藤が08年にスシローに入社したころ、回転寿司は価格が均一で、その多くが100円だった。そこで彼は「グルメ寿司」と呼ばれる分野を確立する。皿を色分けして、値段を変えて「脱100円」を図ったのだ。これが大当たりして、今ではほとんどの回転寿司の主流になっている。価格に差をつけた付加価値づくりから、今、彼が挑むのは面で「人」を育てる価値づくりと言えるだろう。

エリア共和国に名乗りでる「攻めの地銀」

一方、エリア空白地帯から提案をしてくる地銀が増加した。貸出残高が伸び続け、純利益が26%増(24年4月〜12月期)の山陰合同銀行などだ。

金融庁が「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を策定したのが03年。約20年を経て、銀行法も改正され、銀行の自由度が増す新しいフェーズに移ったと言っていい。日本の地域課題を、地銀とともにスタートアップがM&Aで共創する。エリア共和国型は「食」以外の業界に広げていくことも可能な「新しい国づくり」かもしれない。


まん福ホールディングス◎2021年、創業。食のバリューチェーンをつくる会社で、お届け料理専門店をはじめ、北海道から九州まで、食関連事業などの水平・垂直統合を行う。25年にはアメリカ進出を視野に入れる。代表取締役社長の加藤智治は、1974年生まれ。ドイツ銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー、あきんどスシロー、ゼビオの代表取締役を歴任し、カカクコムの社外取締役も務めてきた。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=若原瑞昌

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