ここで加藤はある事実に気づいた。エリアの競争優位性と資本の関係だ。
例えば、豚肉、鶏肉、牛肉の生産量が日本で最も多いのは鹿児島県である。そして豚肉と鶏肉の生産量で2位は宮崎県。また、国産牛には「あか牛」という種類がある。赤身が多く、やわらかさと余分な脂肪分が少ない牛だ。あか牛の生産の9割は熊本県である。つまり、九州南部は肉の巨大生産地であり、ほかエリアよりも圧倒的に競争優位だ。
一方で、大きな問題がある。経営の継続性だ。人手不足で、後継者も労働者も確保が課題である。そこで彼が思いついたのが「エリア」という「面」の経営だった。
熊本に「肉の大塚」という、あか牛を扱う会社がある。あか牛肥育日本一の牧場と提携しており、ほかにも黒毛和牛や馬肉も含めて、食肉卸、外食、小売りを行っている。
肉の大塚はグループ拡大をしていくなかで、コア事業とノンコア事業に分けていた。そこで、ノンコアである精肉、小売り、外食の3事業が、まん福に譲渡されることになった。
さらに熊本の人気ナンバーワン唐揚げチェーン「おぐらの唐揚」、食肉加工の「さくらや食産」をグループに統合した。そして、これらを「熊本肉共和国」という名称にしたのである。「面」の経営のスタートだ。
「日本をエリアごとの共和国のように分けられるのではないか。そうすればエリアごとに意味づけができる」と加藤は考えた。
面を経営するチームが、付加価値向上を目指す。エリア経営で発展を遂げた事例に、09年に設立された東北地方のインフラ交通事業体「みちのりホールディングス」がある。冨山和彦氏のIGPIグループが、過疎化の著しい東北のバス会社を中心に統合させたものだ。先端テクノロジーの活用と高解像度の経営手法で、人材確保と高い付加価値を実現している。
「面」の経営に変えていくなかで、地銀の存在が重要な鍵となった。東京の大資本ではなく、エリアの中心にたつ地方銀行が融資などの資本政策はもちろん、事業承継や業務提携など地元企業の情報を熟知している。しかも地元で最も信頼される機関である。地銀が仲介することで、マッチングは可能になる。
「熊本肉共和国」においては、肥後銀行がパートナーとなった。16年に発生した熊本地震を機に、地元の肥後銀行は「創造的復興」と名付けて、地元企業との関係をこれまでにないほど密接なものにしている。ここにスタートアップである「まん福」が登場したことで、いわばジョイント・ベンチャーのごとくM&Aの共和国を共創していくのだ。
「まん福へグループジョインしてもらった地域の企業様の維持発展を地銀さんにもサポートしてもらい、マイノリティで資本をもってもらう。こうして統合した会社のオーナー様のご子息がグループに入社した後、然るべき時に事業承継することも可能になる。共和国型だといろんなかたちで経営を継続させることができるのです。また、エリア共和国型だと、グループジョインをする会社が増えても、オペレーションの本部を置けばいいので、経営者の数を増やす必要がありません」と加藤が話す。