食&酒

2025.02.19 18:15

ハラール中華の蘭州拉麺、首都圏や関西に出店増加も迷走する深い事情

蘭州拉麺の基本は「一清、二白、三紅、四緑、五黄」。「清」は澄んだ牛骨スープ、「白」はダイコン、「紅」はアクセントになる辣油、「緑」は香味野菜やパクチーなど、「黄」は手打ち麺を指す。(神保町の「馬子禄蘭州牛肉面」にて)

ところがである。それから数年後、店の数は増えたものの、あるいは増えすぎたせいだろうか、筆者の目には明らかな迷走が見られるのだ。

最近の蘭州拉麺のフランチャイズ店では、麻婆豆腐かけや水餃子のせなど、おそらく日本人の取り込みのためだろうが、本場の姿から大きく逸脱しているメニューが見られるのだ。豚肉を使用する具材もあり、もはやハラールであることすら追求していないようなのだ。

某蘭州拉麺チェーンでは麻婆豆腐や麻婆麺を出している

某蘭州拉麺チェーンでは麻婆豆腐や麻婆麺を出している

某店の水餃子蘭州拉麺は「豚肉使用」と書かれており、これでいいのだろうかと思ったりもする

某店の水餃子蘭州拉麺は「豚肉使用」と書かれており、これでいいのだろうかと思ったりもする

これは中華料理によくある「現地化」とも少し違う気がする。一般に現地化は、その国や土地の人々の口に合うように、長い時間をかけて味に改変が加えられていくものだ。

いま見られる迷走ぶりは、中国人オーナーが「日本人は麻婆豆腐が好きだから、牛肉麺の上にトッピングしてしまおう」というような安易な発想のように思える。これは経営者の多くが回族ではないことも理由だろう。

それは神保町の「馬子禄」のように、日本人が本場の味に忠実であろうとする姿とは対照的で、なんとも皮肉な構図に見えてしまう。どうしてこんなことになってしまったのか。

彼らの立場からひと言弁明すると、多くの中国人ガチ中華オーナーたちは、もともと留学などで来日し、日本の飲食店でアルバイトしながら、日本の食文化や飲食システム、居酒屋メニューのレシピを学んだ人たちだった。

その後、独立して日本人向けの飲食店を始めた人も多い。彼らがガチ中華を提供するようになったのは、2010年代半ば頃から経済力のある若い中国人が多く来日するようになり、新しい顧客が生まれたからだった。

そのうち、ガチ中華の店が増え、日本人客も取り込まないと経営が成り立たなくなった。彼らが安易に蘭州拉麺に麻婆豆腐をトッピングしてしまうのは、こうすれば日本人も食べてくれると思い込んでいるからだろう。中国では地味な家庭料理にすぎない麻婆豆腐が、これほど日本で愛好されているのだから、そんな誤解が生まれても仕方がないのかもしれない。

1980年代の改革開放以降に生まれた中国の飲食経営システムが、21世紀にガチ中華として日本に持ち込まれた末に迷走する蘭州拉麺の現在だが、言うまでもないが、異国の地で母国の味を提供するということは、そんなにたやすいものではないようである。

写真=中村正人

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