数年前、国際アートフェア「フリーズ」の視察のため30年ぶりにソウルを訪れた際に、韓国の若者の活気、卓越したデザイン力、アート拠点としての存在感に圧倒されました。以来ソウルは私にとって、最新のトレンドを肌で感じ、自分の感覚をアップデートする旅先になっています。
特に印象的なのが、若い世代が自国の伝統文化に新たな価値を見出し、現代的な感覚で再解釈しているシーンに頻繁に出会えること。大統領府に近い安国(アングク)では、「韓屋(ハノク)」とよばれる伝統建築をおしゃれにリノベーションしたカフェやブティックが点在し、国内外の若者たちで賑わっています。

私は自分の内面を高める旅を「ハイエンドトラベル」と称して研究し、ビジョンある取り組みやオーナーの志から得たヒントを発信しています。今回出会ったのは、朝鮮時代の特権階級の住居を改装した一棟貸しのホテル「Nostalgia Seoul(ノスタルジア・ソウル)」。その名の通り、古き良き時代への郷愁を感じさせる場所です。
はじまりは不動産投資
ソウル中心部の北村韓屋村(プッチョン)、まるでタイムスリップしたかのような韓屋街の一角に位置する同ホテルは、韓国文化のショーケースのような空間です。オーナーのパク・ヒョング氏は、ソウル中央大学で行政学を専攻。卒業後に20年以上にわたりブランドコンサルティング会社を経営し、「韓屋を守りながら韓国の哲学や情緒を体現するラグジュアリーブランドを創りたい」という思いから、ノスタルジアを立ち上げました。
「韓国文化には深い奥行きと多様性があります。それを表現するブランドが必要で、それなら自分がその役割を担おうと考えました。海外からのゲストに、韓国文化への没入感ある特別な体験を届けたい」と語ります。

「ホテルビジネスは、『文化的な不動産投資』といえます。不動産取得後に培った建築やインテリアデザインのノウハウを、韓屋の改装に活かすことができました」。ほかにも、カンナム地区でアートギャラリーを経営し、ノスタルジアのコンテンツづくりにも役立てています。