さらにこの旅館では、食事サービスを部屋食からレストラン食に変更して配膳作業を効率化し、その分調理に力を注ぐ選択をした。
「他のサービス業の現場でも、セルフレジや配膳ロボットの導入などが進んでいます。これからは“至れり尽くせり”のサービスをやめ、本当に必要なサービスのみに人件費を割く企業がますます増えるでしょう」
そんな人口減少局面において、労働者の立場はますます有利になっている。日本企業では、以前までは低賃金で大量の人材を雇用することが合理的な経営戦略とされてきたが、今やそれでは人件費が膨張して利益の確保が難しくなっている。労働投入量が減少した現在は、賃金を上げ、多様な働き方を認める方向にシフトしている。
企業は倒産やM&Aが活発に
さらに坂本は、長い目で見ると人口減少に伴って企業数が減少していくと予測する。人手不足による倒産やM&Aが活発化し、しだいに少数の事業者に集約化されていく。ここで生き残るには、デジタル技術への投資や高騰し続ける人件費に対応できるだけの企業体力が必要だ。「一定数の企業が市場から退出することは、市場のメカニズム上、十分に起こりえることです。こうした退出の流れが強まると考えられる時代だからこそ、経営責任を経営者個人に帰すような従来の日本の商習慣は適切でなくなります。例えば、廃業する際に経営者個人の財産を守ったり、再挑戦できるような環境をつくったり、といった対策を前向きに議論していく必要があります。社会全体としてこれからの人口減少経済にいかに向き合っていくのか、これは25年の重要なテーマです」
さかもと・たかし◎一橋大学国際・公共政策大学院修了後、厚生労働省に入省。内閣府にて官庁エコノミストを務めた後、三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストとして従事。2017年から現職。近著に『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)。