2025年1月24日発売の「Forbes JAPAN3月号」では、3特集を一挙掲載!第1特集は「インパクト100」。社会課題の解決と持続可能な成長を両立しポジティブな影響を社会にもたらす「インパクトスタートアップ」や、社会・環境課題の解決と運用収益の両立をめざす「インパクト投資」をはじめ、世界も注目する「日本のインパクトエコノミー」最前線にフォーカスしている。「日本のインパクト・エコノミーの未来を創る100人」企画をはじめ、ポール・ポルマン(元ユニリーバCEO)独占インタビュー、ノーベル経済学賞受賞者サイモン・ジョンソン教授へのインタビューも掲載している。2024年のノーベル経済学賞共同受賞者は現在のイノベーションと人類の幸福をどう考えるのか。サイモン・ジョンソン米MIT(マサチューセッツ工科大学)教授の思考から見えてくるものとは。
人工知能(AI)旋風が世界を席けんするなか、行き過ぎたテクノロジー楽観主義に警鐘を鳴らすのが、2024年ノーベル経済学賞受賞者、サイモン・ジョンソンMIT(マサチューセッツ工科大学)スローン経営大学院教授だ。
同教授は、共同受賞者のダロン・アセモグルMIT教授とともに『技術革新と不平等の1000年史』(上下巻、鬼澤忍/塩原通緒・訳、早川書房)を出版。テクノロジーの進歩による繁栄は一部の富裕層に富をもたらしただけで、大半の人々には恩恵が行き渡っていないと指摘する。
ひと握りの富裕層のみに報いるテクノロジーの方向性を変え、繁栄を共有するには? ジョンソン教授に話を聞いた。
──過去1000年間、新発明は繁栄の共有をもたらさなかったそうですね。サイモン・ジョンソン(以下、
ジョンソン)
:その最たる例が、英産業革命初期における繊維産業の自動化だ。紡績機の発明で綿の大規模生産が可能になると、力関係が労働者から雇用主と機械の所有者に移行。30〜40年間、賃金が据え置かれた。実業家らは莫大な富を手にしたが、労働者は生産性向上の繁栄にあずかれなかった。
テクノロジーはプラスの影響も及ぼしうるが、要は、(利益分配の方法や開発の方向性など)社会の「選択」次第だ。
米国や日本では第二次世界大戦後、テクノロジーの進歩が多くの労働者に利益をもたらした。だが、技術革新が起こった1980年代以降、そうではなくなった。イーロン・マスク米テスラ最高経営責任者(CEO)や米大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツが説くようなテクノ楽観主義は行き過ぎだ。
──「機械の性能向上は、ほぼ自動的に賃上げにつながる」という、英経済学者アダム・スミスの主張は正しくない、と?ジョンソン:産業革命初期では、賃上げまで40年以上かかった。「AIは6年後の賃上げにつながる」と考えているとしたら、見通しが甘い。テクノロジーを所有・導入している人々は、想像を絶するような富をすでにもっているが、(テクノロジーを使って)さらにお金を稼ごうとしている。
第2次世界大戦後30〜40年間は米国の労働者も繁栄を共有していた。だが、1980年代になると、教育レベルが高くない層は恩恵を得られなくなり、60年代以降は実質的に賃金が上がっていない。多くの米国人が取り残された理由は貿易とテクノロジーにある、と考える。
自動化の普及で、中程度のスキル・教育レベルの人々が失職し、米労働市場の下方に転落した。下位市場は競争が熾烈で賃金も安い。「中間市場の空洞化」「雇用市場の二極化」だ。グローバル化や労働組合の衰退も影響している。米国の格差は危険水域に達しており、AIで悪化しかねない。