ジョンソン:「生産性バンドワゴン」とは、生産性向上で自動的に労働需要が増え、賃金が上がるという理論だ。しかし、労働者1人当たりの機械の数が増えて生産性は上がっても、自動化で労働者が機械に置き換えられただけで、労働需要が増えなければ、賃金も上がらない。
──そうだとすれば、イノベーションは格差を拡大しかねないわけですね。
ジョンソン:私はイノベーションやテクノロジーに反対しているわけではない。テクノロジーが人々にどのような影響を与えるか、それは社会的な「選択」にかかっているということを言いたいのだ。
イノベーションを止めることはできない。だが、どのようにやるのかが問題だ。テクノロジーのビジョンを描くのは誰か? それは労働者にとって何を意味するのか?
私たちは、教育水準が高くない労働者の生産性を高める方法でAIを開発するよう推奨している。いわゆる「親労働者AI」だ。彼らのために新たな仕事を生み出すには、特定の方法でテクノロジーを形作る必要がある。労働者のスキル習得と教育への投資だけでは不十分だ。
繁栄を共有するには、十分な教育を受けていない人々の生産性を高める必要がある。ひと筋縄ではいかないが、テクノロジーの道筋を変えることは可能だ。
──AI礼賛の風潮をどうみますか。
ジョンソン:今後1〜2年で、AIをめぐる見通しがどこまで現実になるかがはっきりするだろう。AIが人間の仕事をすべて引き継ぐという見方は幻想であり、まずい考え方でもある。創造的な作業から人間を駆逐し、人的交流を妨げてしまう。
ノーベル平和賞・日本被団協の教え
──原著出版から2年。AIは恐るべき速さで進化していますが、人間の知能に迫る日は近くないと、今でも思いますか。ジョンソン:2024年ノーベル化学賞受賞者たちが開発した、たんぱく質の構造予測システム「AlphaFold2(アルファフォールド2)」はAIによるものだ。科学的に大きな価値のある問題にAIが変革をもたらすことには疑問の余地がない。
だが、AI応用の大半はホワイトカラー業務の自動化だ。経済に変革をもたらすようなものではない。AlphaFold2は例外だ。AIが人間の知能に迫る日は間近だと言う専門家もいるが、懐疑的な見方もある。2〜5年は見ておくべきだ。それが実現した場合、定型的な仕事など、多くの雇用がなくなり、甚大な影響が出かねない。
どのような目的で、どのような技術を開発し、何を優先すべきかといった、テクノロジーの「ビジョン」が重要だ。例えば、イーロン・マスクの目標は自動運転車の普及だ。昨今、彼はさらに大きな権力を手にしているが、代案で人々を説得し、彼のようなビジョンに対抗する必要がある。
ノーベル賞授賞式でスウェーデンを訪れた際、労組やテック関係者と交流し、テクノロジーの開発について話し合った。繁栄の共有には、労組も建設的な役割を果たしうる。ひるがえって、米新政権が大半の米国人に実質的な恩恵をもたらす可能性は非常に低く、ひと握りの富裕層がさらに富むことになるだろう。


