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2024.09.24 13:30

米マイクロソフトのAI戦略を解剖 競争優位を築く「5原則」とは

マルコ・イアンシティ|ハーバード・ビジネス・スクール教授(C)Michael Simon

AI時代における競争と経営の基本原理、変化の本質とは何か。企業や産業のDXが専門分野の世界的有識者に聞いた。


「AI(人工知能)は企業のゲームチェンジャーだ」
 
こう語るのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を専門とするハーバード・ビジネス・スクール教授のマルコ・イアンシティだ。『AIファースト・カンパニー:アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』(共著カリム・R・ラカーニ、吉田素文・監訳、渡部典子・訳、英治出版)の著者であり、米コンサルティング会社「Keystone(キーストーン)」の共同創業者・取締役会長でもある。
 
数々の現場も見てきた彼が、AI変革を成功させるための原則などを語る。

──AIは「企業の本質と経営方法」を変えるそうですね。「AI主導型企業」を目指すことが、なぜそれほど重要なのですか。

マルコ・イアンシティ(以下、イアンシティ この5~10年間というもの、AIは飛躍的進歩を遂げ、人間の多くのタスクを肩代わりするようになった。企業にとって、AIはゲームチェンジャーだ。今後10年間で、さらに大きな進歩が期待できる。在庫予測など、特定のタスクを行う「弱いAI」でも、人間よりはるかに有能だ。

最近では、人間の思考をシミュレーションする汎用型の「強いAI」も普及してきた。強いAIと人間とのコミュニケーションは、人間同士のやり取りさながらだ。生成AIは企業の仕組みを変える。(18世紀後半の)産業革命以来の大変革だ。

現在、世界には10億人超の情報・知識労働者がいるが、情報・知識労働は増大している。知識労働は、情報や文書の作成・処理が圧倒的に多い。そうしたタスクにAIツールを実装すれば、AIがオペレーティング・モデルの基盤になる。強いAIには、誤った情報を生成する「ハルシネーション(幻覚)」などの問題もあるが、AIの成長軌道は確かだ。今後数年で、情報・知識労働のあり方が一変するだろう。

──『AIファースト・カンパニー』に書かれていますが、米マイクロソフトはナデラ最高経営責任者(CEO)の下で、クラウド変革に続き、「AI主導型」オペレーティング・モデルの構築を成功させました。

イアンシティ:書籍(原著2020年1月刊行)に書いた同社の変革は続行中だが、この1年間の躍進ぶりは、私が2年前に思い描いていたレベルをはるかにしのぐ。マイクロソフトは、自社をAI中心の組織に再構築した。データの統合や機械学習を通し、種々の事業プロセスでAIを展開している。
 
マイクロソフトは新世代のAIツールを社内で実装するだけでなく、企業が独自の生成AIやオペレーティング・モデルを展開できるよう、そのプラットフォーム構築でもリーダーシップを発揮してきた。

同社は当初、クラウドサービス「Azure(アジュール)」で「弱いAI」を展開していたが、「ChatGPT(チャットGPT)」の米オープンAIと協働。企業がオペレーティング・モデルの変更を推進できるような「強いAI」基盤のサービスへと舵を切った。
 
例えば、生成AIアシスタント「Copilot(コパイロット・副操縦士)」が好例だ。作業やオフィス業務の自動化ツール「コパイロット」を使えば、さまざまな運用タスクを一括管理できる。マイクロソフトは、(22年11月にチャットGPTが公開される以前の)早い段階からオープンAIに投資してきた。そして、「コパイロット」戦略を軸に会社を方向転換させ、AI主導型企業への変革に弾みをつけた。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=オリーナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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