AI

2024.09.24 13:30

米マイクロソフトのAI戦略を解剖 競争優位を築く「5原則」とは


──同社はクラウド・AI変革で、かつての競争優位性を取り戻したのですよね。

イアンシティ:株価を見れば、わかる。ナデラのCEO就任(14年)以来、1株当たりの配当は約10倍にハネ上がった。彼はリーダーシップと独自のビジョンで、自社のビジネスモデルをソフトウェアからクラウドに変革し、アジュールにAIを搭載。同社はクラウド基盤のAI主導型企業として、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と首位を競うまでになった。

──マイクロソフトのAI変革が成功した最大の要因は何ですか。

イアンシティ:ナデラだ。彼とは長年、仕事を共にしてきた。ナデラには先見の明があり、新たな方向に進むことをいとわない。本にも書いたが(第5章)、11年2月、CEO就任前のナデラに初めて会ったときのことだ。彼は、当時不振だったアジュールへの投資と機能拡張を決断していた。

変革を成功に導く「5原則」

──オペレーティング・モデルの変革を成功に導く5原則とは?

イアンシティ:まず、「戦略の一本化」だ。戦略の明快さと、AIが自社の未来だということに関し、疑念を振り払うことが必要だ。

2つ目が「アーキテクチャの明快さ」だ。縦割り組織でない、AIフレンドリーなオペレーティング・アーキテクチャ(運営上の仕組み)づくりに投資すべきだ。データ資産の統合やアルゴリズムの一貫性を図るべく、アーキテクチャの変革が必要だ。

3つ目が「アジャイルでプロダクト重視の組織」だ。AI主導型企業は、組織自体が「プロダクト」だからだ。他社との差別化を図るAIの展開には、プロダクトマネジャーを伴うアジャイル(機敏)な開発チームなど、一流の組織づくりが必要だ。
 
4つ目は「ケイパビリティの基盤」だ。会社の中核にAIを組み込むには、高度なAI基盤というケイパビリティ(組織の力)を構築する必要がある。

5つ目が「明確で多領域のガバナンス」だ。デジタルガバナンスでは、AI変革に伴う種々の問題を総括的に管理・調整する必要が生じる。部署間の協働が大切だ。

書籍で説明した「AIファクトリー」(第3章)とは、自社でAIの構築・導入を行う組織を指す。他社と差別化したAIをオペレーティング・モデルに組み込むことで、組織が「工場」のようになる。

──AIファクトリーでは、運用上の意思決定をAIが行うそうですね。将来、管理職や幹部も不要になるのでしょうか。

イアンシティ:例えば、かつてのタイピストたちは現在、別の仕事をしている。仕事の性質が急変するにつれ、個人のスキルや能力も進化する。成長マインドセットをもち、新しいことに胸を躍らせて取り組もう。従業員が変革を楽しんでいる組織もあれば、従業員が変革を嫌い、待ったをかける企業もある。だが、後者は生産的ではない。他社に後れを取るだけだからだ。

──原著出版から約4年半。AI変革の現況をどうみますか。

イアンシティ:生成AIがこれほど強力なものになるとは思わなかった。書籍で示した方向性は正しいが、テクノロジーの急速な進歩を過小評価していた。今後も、私たちが考えていた時間軸よりもはるかに速いペースで、AI変革が進むだろう。


マルコ・イアンシティ◎ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授。テクノロジー&オペレーションズ・マネジメント学部長、デジタル・イニシアティブ共同議長などを兼任。Keystone共同創業者・取締役会長。

インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=オリーナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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