1960年代から80年代にかけて世界のデザインに大きな影響を与えたブランドを10年ほど前に買収した企業の本拠地が、田園風景のなかにあるのです。そして、このグループのオーナーが所有しているラステミア・ペンティータという名のバローロにあるワイナリーも見学しました。
ランゲには1989年に始まったスローフード運動の発祥地で、現在も本部があります。スローフード運動は人口サイズの小さめな都市を対象にしたスローシティの認定など、多方面に波及しました。教育機関として食科学大学も2004年に発足させ、食文化を総合的に研究・教育する場となっています。
また、大学にはワイン銀行という名のエノテカがあり、イタリア全土のワイナリーからワインの寄付を受けています。ワインの売上金が大学の運営に使われています。
GATE421というイノベーションハブは地元で成功したIT企業が設立したものです。インキュベーション的な役割をするコーワーキングスペースだけでなく、隣には広大な公園があり子どもが遊び、大人がスポーツできる空間が広がっています。これらに加え、複数企業で財団をつくり病院まで設立し、それを自治体の公的運営としているのです。
最後に訪ねたのは米国人デザイナーのクリス・バングルです。彼はBMWの元チーフデザイナーですが、今はランゲの山の上にスタジオを構えています。
彼は、地域と関わる活動として、巨大なベンチを絶好の景色を眺められるところに置く「ビッグ・ベンチ・コミュニティ・プロジェクト」を始めました。大人であっても子どものような気分で時を過ごせ、そこからコミュニケーションが生まれていくことを狙ったもので、今やイタリアやヨーロッパの各地に広がっています。
ミラノに戻り、ツアー参加者たちにはミラノで最低3カ所のミュージアムを訪ねるという課題を出しました。その後、ミラノ工科大学でビアモンティさんがイタリアにおけるデザインについてレクチャーしました。
イタリアのデザイン史はデザイナー史であり、「メンフィス」をリードしたエットーレ・ソットサスの「イタリアにおけるデザインは人の生き方だ」という言葉で締めます。デザイン文化について説明したように、何かの領域のものを専門的にデザインするよりも、あらゆる領域のものをデザインするデザイナーが多く、必然的にデザインされたものからその人の人生を丸ごと知れるというわけです。