部分でなく全体を見る。ランゲで知るイタリア「デザイン文化」の強さ

以上の性格をもった「建築家デザイナー」は通常、プロジェッティスタと称され、プロジェクトをつくり実行する人を指します。英語のプロジェクトに対応するイタリア語のプロジェットはラテン語に由来があり、「プロ(前)にジェッターレ(投げる)」との意味です。よって20世紀後半、ミラノとその周辺の地域を中心に雑貨や家具の分野でイタリアのデザインが大きく飛躍したとき、プロジェッティスタの強さが認められました。

彼らが新しい素材の導入、ものの新しい使い方や見方を次々に提示したのです。また建築家だけでなく、起業家にも同じような性格や志向があり、彼らが見習うべきモデルもない状況で突破口を見いだしていった。その行動パターンをプロジェクト文化、今の流通しやすい表現にすればデザイン文化と命名できるわけです。
ガエ・アウレンティの回顧展。デザイナーの方針を尊重している展示

イタリアを代表する建築家、ガエ・アウレンティの回顧展。デザイナーの方針を尊重している展示

どうしてランゲなのか?

ランゲは食文化の発信地である一方、世界に存在感を示す民間企業の拠点でもあります。ヌテッラで知られるフェレッロ、トラクターのメルロ、オリンピック競技場で使われる床材を提供するイル・モンド……。ひとつの産業分野に集中していないという点が見どころです。 

1980年代、イタリアのさまざまな地方には分野ごとに突出する産業集積地があり、それぞれの地域で中小企業の活躍が注目されました。1990年代後半以降、中国が「世界の工場」の位置を確立していくに伴いイタリアの中小企業への注目も低下していきますが、地域と特定産業分野の関係が消滅していたわけではありません。

事務機器のオリベッティとイブレア、アパレルのベネトンとトレヴィゾ、最近では高級ブランドのブルネロ・クチネリとソロメオなど、傑出した民間企業が本社所在地のテリトーリオの質をあげる事例がいくつもあります。これらは、どちらかといえば創業者によるトップダウン的な性格が強いといえます。
アルバ市の目抜き通り

アルバ市の目抜き通り

しかしながら、ランゲにおいては一つの企業ではなく、いくつもの企業が動いているボトムアップ傾向がみられます。第二次世界大戦前は貧しい農村地域であり、高等教育の拠点があるわけでもない。伝統的に起業家精神が旺盛であったわけでもない。ただただ、ハングリーな状況から脱したいと強く思った人々の結実が今のランゲを作ってきた──。

いや、本当にそうなのだろうか?

このテリトーリオをデザイン文化の視点から探索する研修プログラムをつくり、9月後半、実験的なツアーを実施しました。システムデザインを専門とする渡辺今日子さんが共同創業者のknots associates inc.、ぼくとミラノ工科大学でデザインを教えるアレッサンドロ・ビアモンティさんで運営するDe-Tales ltd.の2社共同企画です。このプログラムは、ツアーの後に訪問先にコラボレーション提案などを行い、経験を熟成していく内容までを含みます。
次ページ > ランゲで何をみたのか?

文・写真=安西洋之

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事