サイエンス

2024.11.24 16:00

1年で1万5000キロ移動する「蝶が直面」する、気候変動の脅威

ヒメアカタテハの驚くべき強靭さの理由

ヒメアカタテハの渡りは、一見したところ途方もない苦行だ。しかしこの蝶は、旅の途中で遭遇するあらゆる困難を乗り越えられるだけの特質をそなえている。

・移動しながら土地に適応:多くの種の蝶は、特定の食草に依存するが、ヒメアカタテハは多食性で、さまざまな種類の植物を餌として利用できる。こうした柔軟性のおかげで彼らは、アフリカのサバンナからヨーロッパの牧草地まで、多様な環境を利用できる

・太陽とともに移動:ヒメアカタテハは渡りのあいだ、太陽コンパスを利用して、進むべき方角を見つける。太陽の位置に応じて飛行ルートを調整するのだ。この能力により彼らは、広大なサハラ砂漠や、アルプス山脈の急峻な連峰といった過酷な地形を超えていく

・好機を逃さない:気象条件の変化に伴い、普段は乾燥した地域でも、突発的に降雨が発生することがある。このような場合、突如として繁茂した植物を利用しようとして、ヒメアカタテハが大挙して飛来する。時には、このような気象現象が大移動を引き起こし、数百万匹の蝶の大群が土地を渡っていく圧巻の光景が繰り広げられることもある

加えて、世代を超えた渡りは蝶では珍しくないとはいえ、ヒメアカタテハの渡りのサイクルは、実に10世代をかけて完遂される。繁殖サイクルが短いおかげで、ヒメアカタテハは移動しながら次々に新天地に定着し、いつでも渡りを引き継ぐ次世代が待機している状況を維持できるのだ。

気候変動がもたらす暗雲

ヒメアカタテハは、高い適応能力と、世代を超えた渡りという驚くべき強靭さを備えた蝶ではあるが、気候変動の影響により、旅を混乱させかねない新たな問題に直面している。

最も懸念されるのは、渡りのタイミングとルートの変化だ。ヒメアカタテハは、気温や降雨量など、環境中の特定の手がかりに基づいて渡りを開始する。気候変動によってこうしたパターンが乱れてしまうと、渡り開始のタイミングと、渡りのルート上で利用できる食料とのあいだのミスマッチに直面するかもしれない。

加えて、気候変動によって、渡りの距離が長くなる可能性もある。従来の繁殖地の環境が好適なものでなくなれば、ヒメアカタテハは、より良い環境を求めて、さらに遠くまでの移動を強いられるかもしれない。

2021年6月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文は、ヨーロッパとアフリカの全域で降雨パターンが変化していることも、ヒメアカタテハの渡りに重大な影響を与える可能性があると指摘している。さらに、嵐や干ばつといった異常気象は、渡りのルートを断絶させ、重要な繁殖地を破壊するおそれがある。

気候変動が世界の生態系に影響を及ぼしつづけるなか、ヒメアカタテハが驚異の大移動を続けられるかは不確かだ。彼らの強靭さと適応能力は折り紙付きだが、気温上昇と、気象パターンの変化によって激変する世界のなかで、彼らはますます苦難の旅を強いられるかもしれない。

大陸を超え壮大な旅をする、この驚異の蝶の生態を理解し支えていくには、継続的な研究と保全努力が不可欠だ。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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