サイエンス

2024.11.13 15:00

バミューダで産卵し、数千キロも旅をする「ウナギ」の不思議な一生

Getty Images

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世界には、ウナギやそれに類する魚がおよそ800種いる。この魚たちは昔から、研究の難しさにかけてはトップクラスだった。数限りない解剖が行われたが、研究者たちはその生殖器官を見つけられなかった。また、生殖行動の観察も不可能だった。最近までは。

19世紀の精神分析学者ジークムント・フロイトは、若いころウイーン大学で生理学を研究していた。このとき、400匹を超えるウナギの仲間を解剖したが、精巣を見つけられなかった。実は、400匹のすべてがメスだったのだ。結局、フロイトはイライラを募らせ、興味の対象をほかに移した。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスが、「ウナギは土や泥から自然に生まれる」とする説を唱えたことは有名だ。古代ローマの軍人で博物学者でもあった大プリニウス(ガイウス・プリニウス・セクンドゥス)は、成体のウナギが体を岩にこすりつけて皮膚の一部を削ぎ落とすと、そこから子が現れると考えていた。

イングランドの田園地方では、さらに奇妙な説が広まっていた。ウナギは、水に浮かぶ馬の毛から生まれるのだという。ウナギが生殖行動を行うという概念は、実は比較的新しいものなのだ。

ウナギはバミューダ・トライアングル近くに集まって繁殖する

米国で最もよく知られている2種のウナギ(アメリカウナギとヨーロッパウナギ)は、米国南東沖のサルガッソ海で繁殖し、それから何千キロメートルも移動して淡水環境に向かうとされている。しばらくのあいだ淡水環境で生息していたウナギは、繁殖の時期になると、どこからでも、たとえ陸に囲まれた池や、ダムに遮られたエリアからでも、どうにかして内陸を数千キロメートル移動して海へ出る(彼らは、身をくねらせてダムを乗り越えていく)。

サルガッソ海は、4つの海流が大きな渦を作る中にある海域だ。水難事故が多発するバミューダ・トライアングルに近いこともあり、科学者が出かけていって調査をするのが難しい場所だ。

サルガッソ海という名前の元になったのは、浮遊性の海藻サルガッスム。きらきら光ることから、「水に浮かぶ金色の森」の異名をとる、ホンダワラ属の海藻だ。米国の沿岸地域に大量に生えているこの海藻が嵐によって海を漂流し、海流に乗ってサルガッソ海に流れ着く。そして水流が無く無風状態が続くと、多くの海藻がこの海域に溜まることになる。
サルガッスム Getty Images

サルガッスム Getty Images

最近では、サルガッスムがおそろしく増え、その広がりは宇宙からでも見えるほどになっている。この桁外れの大繁殖の原因は、世界の産業活動によって、過剰な窒素とリンが海に垂れ流されていることにある。

いまから100年近く前、さまざまな海洋調査を行なったデンマークの生物学者ヨハネス・シュミットは、1921年にサルガッソ海でウナギの幼生を見つけた。さらに調査を行なったシュミットは、沿岸から遠ざかれば遠ざかるほどウナギの体が小さくなることを示すデータなどを集め、ウナギはサルガッソ海で産卵するという説を唱えた。だがいまだに、その当時以上のことはほとんどわかっていない。

現時点で確実にわかっていることを、以下にまとめた。
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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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