しかし、ヒョウモンダコ(学名、Hapalochlaena maculosa)の警告システムは、ヒトにはあまり効果的ではないようだ。多くの人々が不用意に手を出し、咬まれて有毒の唾液に苦しんできた。このタコはとりたてて攻撃的な種ではないが、追い詰められたり触られたりするのは好まない。
手のひらに乗るほどのサイズ(平均全長13~20cm)のヒョウモンダコの毒は、ヒトを麻痺させるほど強力だ。咬傷で亡くなる人はまれだが、いまだ解毒剤が知られていないこともあり、実際に死亡事故も起こっている。
ヒョウモンダコの咬傷による死亡例がどれだけあるかははっきりしないものの、1996年に刊行された、有毒海生動物に関するハンドブックによれば、この時までに少なくとも11人が亡くなったとされている。
ヒョウモンダコは、孵化するまで卵を「持ち運ぶ」
1973年に学術誌『Marine Biology(海洋生物学)』に掲載された論文に、飼育下で生まれたヒョウモンダコの生活史が記録されており、このなかで、ヒョウモンダコの珍しい特徴が明らかになった。メスは、他種のタコと違って、巣穴や岩の下に産卵するのではなく、孵化するまで卵を肌身離さず持ち歩く。メスは、腕で卵の房を抱きかかえるような姿勢をとり、必要に応じて、腕から腕へと持ち変える。一度の産卵で最大50個の卵を産むことを考えると、かなりの重労働だ。
研究者たちは、この種は繁殖効率を最大化するように進化したのだろうと考えている。ヒョウモンダコの繁殖速度は速い。さらに彼らは、「甲殻類だけ」というシンプルな食事で立派に生きていける。甲殻類の体に歯を突き立て、有毒の唾液を注入して、食べる前に肉を半消化状態にしたあと、処理した組織を吸い込むのだ。
毒は、食事の下準備だけでなくウツボ、イルカ、大型魚といった天敵を遠ざけることにも役立っている。