サイエンス

2024.11.28 18:00

「オスが出産」するタツノオトシゴ、その理由と謎

加えて、オスの「妊娠」は、卵を安全に育てる場所や手段が限られている状況においてタツノオトシゴに優位性をもたらす可能性があると、学術誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に2020年4月に掲載された論文で指摘されている。いくつかの種において、オスは異なる個体のメスが産んだ複数の卵のグループを同時に妊娠し、同じ育児嚢で育てることができる。この適応は遺伝的多様性と生存率を高め、危険な環境に生息するタツノオトシゴに競争上の優位性をもたらす可能性がある。

「一夫一婦制」で生涯連れ添う

繁殖の戦略だけでなく、タツノオトシゴは他の海洋生物と一線を画す魅力的な特徴を数多く持っている。

例えば、タツノオトシゴは繁殖期に複雑な求愛の儀式を行うことで知られている。儀式にはオスとメスが並んで泳ぐ魅惑的な「ダンス」があり、しばしば相手と同じ動きをする。

タツノオトシゴの多くの種は「一夫一婦制」で、生涯を同じパートナーと過ごすため、求愛のダンスは何時間も続くことがあり、カップルの絆を確立・維持する上で極めて重要なものだ。このような社会的行動はおそらくオスの妊娠・出産への献身を強化する役割を果たし、存続を支えるユニークな協力関係を作り上げている。

また、タツノオトシゴは並外れたカモフラージュ能力を持っている。専門誌『ジャーナル・オブ・フィッシュバイオロジー』に2004年7月に掲載された論文によると、骨ばった外骨格と、巻きつけるのに適した尾を備えているため、海中植物やサンゴに身を固定して周囲の環境に溶け込み、捕食者から逃れることができるという。

タツノオトシゴ(Shutterstock.com)

タツノオトシゴ(Shutterstock.com)

存続の危機的状況

驚くべき適応にもかかわらず、タツノオトシゴの生息環境は依然として厳しく、生息地の破壊や汚染、乱獲が日常化している現代において個体数は減少している。伝統医療やペット取引によるタツノオトシゴの需要は、こうした窮状をさらに悪化させている。

プロジェクト・シーホースのような海洋保全団体は、このデリケートな生き物とその生息地の保護について啓発し、保護活動を実践するために精力的に活動している。海洋保護活動家たちは、タツノオトシゴが繁殖する重要な場所である海草がしげる海域やマングローブの保全を提唱している。

加えて、意図せず捕獲する混獲を減らし、海洋に保護区を設けることで、タツノオトシゴの個体数を守ることができる。ジャーナル・オブ・フィッシュバイオロジーに2011年6月に掲載された論文によると、タツノオトシゴはオスが妊娠しなければならないために繁殖のスピードが遅い。そのため、個体数の減少は種としての存続に長期的に大きな影響を及ぼす可能性があるという。

タツノオトシゴは単なる海洋の変わり者ではなく、自然の驚くべき創造性の証だ。タツノオトシゴのユニークなオスとメスの役割交換から科学が学ぶべきことはまだたくさんあり、タツノオトシゴの生存は水中の生命の複雑なバランスについての多くの秘密を解明する鍵になるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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