リーマン・ショックの後、PGAツアーはスポンサーの激減とスターの不祥事という破滅的な危機を迎えていた。PGAツアーのコミッショナーのティム・フィンチェムはこの危機から米国ゴルフ界を救い出した。「奥の手」ともいえるスキルをフル活用し、謎めいているが賢いビジネスモデルを活用したのである―。
奇跡を成し遂げた巨額内部留保の秘密
(中略)それから3年半が過ぎ、66歳となったフィンチェムはポンテ・ベドラ・ビーチのオフィスのいすでリラックスし、大きな窓からPGAのホームコースTPCソーグラス(TPC Sawgrass)を眺めている。ツアーがこれほど確固たるものになったことはない。フィンチェムは不況について「あれほど深刻な状況になるとはまったく考えていなかった」と話す。「しかし、我々は危機を乗り越えて、以前よりも強くなりたいと思っていた」。
彼がやり遂げた方法は、近年のスポーツに関するあまり知られていないサクセスストーリーの一つである。
PGAツアーはチームで戦うものではなく利害関係者が多いため、最も扱いにくいスポーツ運営団体かもしれない。(中略)
しかし、最も重要なメンバーは2社の放送提携企業である。11年後半、米国経済と世界ランク58位まで転落していたウッズが依然として立ち直れずにいる状況で、フィンチェムはCBSおよびNBCと9 年間の延長契約の交渉を行った。その結果、両社は21年まで続くコムキャスト/NBC(Comcast/NBC)系列のゴルフチャンネルとの契約に加わった。この大型契約は年間5 億ドル余りの価値を生み出し、これによりツアーの収入も27%増加する。
テレビという「パイプライン」を確保したフィンチェムは、ゴルフに集中した。まず、フェデックスカップとして知られるツアーの年末のプレーオフシリーズを後援するフェデックスとの契約を5 年間延長した。中南米とカナダに進出した。選手育成のために下部ツアー公式スポンサーとしてウェブ・ドットコム(Web.com)と契約を結ぶと同時に、ツアーに参戦するための予選会の手順・仕組みを変更し、下部組織の活性化を図った。それから彼は、ツアーのスケジュールを積極的に再編し、他のプロスポーツのリーグのように、10月から始まる12カ月シーズンに変えた。SRIインターナショナル(SRI International)によれば、娯楽としてのゴルフ産業(旅行、不動産、コースの建設、プレーされるラウンドを含む)が11年には690億ドルと、05年以降ほぼ10%縮小したなかで、フィンチェムはこれらすべてを成し遂げたのだ。
では、非常に不利だと思われる状況で、いったい彼はどのようにこれらをやり遂げたのか? PGAツアーの競争優位性を保つ源泉となっている免税特権をフル活用したのだ。ツアーは「オーナー」なしで設営されたため、利益を分け与える人がいない。心温まるイメージに反し、ツアーはその利益のほんの一部を慈善事業に寄付しているにすぎない(60ページの「慈善事業か現金自動支払機か?」参照)。最も重要なのは、これらの利益は非課税であるということだ。フィンチェムの下でツアーは、「緊急時用資金」として知られる活動資金を内部留保することができ、それがもう少しで10億ドルになる。
(以下略、)