だが、科学者たちがこうした証言を詳しく検討すると、1つの事実が明らかになった。ビッグフットの目撃例に登場するのは、伝説の古代生物などではなく、おなじみのアメリカグマ(学名Ursus americanus)ではないか、ということだ。
アメリカグマは北米で最も個体数の多いクマであり、ビッグフットの目撃例がある地域に広く分布している。この種は適応能力が高く、森林や湿地をうろつく姿がよく観察され、時には郊外にも出没する。こうした場所に現れるアメリカグマは、人々の空想を刺激してやまない。彼らは二足歩行することがあり、その姿が、もっと不気味な何かと間違われるのは無理もないことだ。
アメリカグマがビッグフットと間違われる理由
多くの研究者は、目撃されたビッグフットの正体はアメリカグマだと考えている。実際に一部の地域では、アメリカグマの個体数とビッグフットの目撃報告に強い相関があることが、2024年1月に学術誌『Journal of Zoology』に掲載された論文で示されている。この論文によると、クマの個体数が1000頭増加するごとに、ビッグフットの目撃報告は4%増加するという。目撃報告の多くはクマである可能性が高く、特にクマが高密度で生息しているエリアではほぼ確実だろうと、論文著者らは合理的な結論を述べている。
アメリカグマには、ビッグフットと見間違えられる理由の有力候補となる、いくつかの特徴が備わっている。
第一に、アメリカグマは大型動物だ。成獣のオスは体重60~300kgになり、体長は1.8mに達する。後肢で立ち上がった姿を見て、二足歩行のヒトに似た動物と勘違いしても不思議はない。その姿は、見慣れていない人にはビッグフットのイメージにそっくりだ。
アメリカグマは、普段は四足歩行するが、後肢で立ち上がるのがとてもうまい。こうした行動をとるのには、いくつかの理由がある。
クマが後肢で立ち上がるのは、周囲を見渡している途中で、何かをもっとよく見ようとした時や、空気中のにおいを確かめる時、脅威を感じた時などだ。このような行動は一時的なものだが、直立姿勢はビッグフットのシルエットを彷彿とさせる。
加えて、アメリカグマが最も活発になるのは朝方と夕方だが、こういう時間帯は視界が悪いため、見たものを誤認しやすい。薄暗い森のなか、影や木々の葉が視界を遮る場所で、立ち上がったクマをほんの一瞬目にしたら、伝説のビッグフットだと思い込むこともあるだろう。