海外での自国語の「需要と供給」
この「たけし日本語学校」の現状から一つの問題提起をしたい。それは海外での自国語の需要と供給についてだ。
まず、供給量を他国と比較してみよう。
1.中国
最初に、中国。国家政策として中国は猛烈なスピードで中国語教育を供給している。
中国が世界中に設立している「孔子学院」は、中国語教育や文化交流が目的だ。2004年に設立されて以来、世界162カ国(地域含む。以下同じ)に550以上の孔子学院を設立(まさしくほぼ全世界)。年平均30施設以上のスピードで増えている。また、2004年から2021年までに、全世界の孔子学院で中国語や中国文化を学んだ人数は1300万人以上になる。ベナン共和国の東大といわれるアボメカラビ大学の構内にも孔子学院は存在する。当然、中国政府のプロパガンダ政策ではないかという批判もある。
さらに、「アフリカに行ってテレビをつけたら、中国の番組ばかり放送している」という話をよく聞く。中国がアフリカ各国の放送インフラ整備を支援していることから、中国製コンテンツの配信が増えているのだ。中国のNHKともいえるCCTV(中国中央電視台)は、アフリカの地元制作会社と共同で番組づくりをしていることもあり、アフリカの人々に親しみやすいローカライズされた番組も供給している。
2.韓国
次に、韓国も勢いを増している。韓国語と韓国文化の普及を目的に「世宗(セジョン)学堂」を2007年に設立。2022年の時点で80カ国244カ所に拡大。K-POPや韓国ドラマの人気もあり、関心が高まっているが、中国と同様に「言語教育で政治的な影響力拡大を狙っているのではないか」という声もある。
では、かつて植民地支配をしていた国々はどうか。
3.フランス
フランスの「アリアンスフランセーズ」は世界136カ国、1000校以上存在する。設立は1883年(明治16年)と古い。プロイセンとの戦争に負けたことによるフランスの影響力低下を危惧し、文化教育で国力を復活させるべく設立された。日本の札幌、仙台、名古屋、徳島にもある。
4.イギリス
イギリスは学校を設立していないが、1934年発足の「ブリティッシュ・カウンシル」が英語教育・英国文化・英国の価値観を世界に広げている。活動は100カ国以上に及ぶ。
5.スペイン
意外と新しいのがスペインの「インスティトゥト・セルバンテス」で、バルセロナ五輪の前年1991年に設立された。当時、EU統合への動きが加速するなかで、EUでのスペインの位置づけを強化し、ヒスパニック文化を普及させるため、世界40カ国、72カ所に設置された。
6.ドイツ、その他
ドイツの「ゲーテ・インスティトゥート」は92カ国、158カ所。起源はヴァイマル共和政時代だが、第二次世界大戦後の1951年、ドイツの国際社会への復帰と理解を目的に引き継がれた。