教育

2024.11.08 14:30

合意形成学で「わかりあえない」を諦めない

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合意形成の「レジティマシー」

合意形成のプロセスをデザインするときには、それぞれのシチュエーションに応じた検討が必要である。誰が参加して、どのようなことを決めていくのか、対立軸はあるか、意思決定にどのくらいの時間を費やすことができるのかなど、具体的な条件を踏まえて考えていかなければならない。条件に応じた細かな工夫は多数存在するが、一方で、望ましいコミュニケーションを実現するうえで、共通して重要となる観点もある。そうした観点のひとつであり、私が最も大切にしていることは、「レジティマシー(legitimacy)」を損なわないように話し合いのプロセスをデザインすることだ。
 
レジティマシーとは「理にかなっていること」を意味する。それがどのような状態なのかを理解するには、逆にレジティマシーが損なわれた状態をイメージするとよい。例えばもし話し合いに参加した人が、「一部の人の声だけが尊重されている」とか、「はじめから結論が決まっていたのではないか」などと感じたとしたら、それはレジティマシーが損なわれているということだ。話し合いのプロセスに対して「あれ?おかしいぞ?」と疑念が生じてしまうと、結論への納得感は得られない。レジティマシーが損なわれるような状況を回避することが、合意形成の原則である。
 
レジティマシーを損なわないようにするために、どのような点を考慮して話し合いをデザインすべきか。私が心がけている三つのポイントがある。第一に、多彩な声が語られるセーフティの高いコミュニケーションの場をつくること。第二に、さまざまなアイデアを資源として生かす創造的な話し合いを設計すること。第三に、参加者がオーナーシップを感じられる透明性の高い意思決定プロセスを構築することである。合意形成が難しい場面でも、これらの点に留意して話し合いを進めていくことで、未来の選択肢を描いていく。
 
話し合いをスタートするときにいちばん基本となるのは、「セーフティ」である。合意形成では話し合いを通して意思決定を行う。話し合いを重視するということは、異なる視点から意見を述べ合うことによって、より望ましい解を生み出せると考えることである。しかし、話し合いの場に多くの人が集まったからといって、さまざまな声が語られるとは限らない。何度も発言権を求めて自分の主張を繰り返す人がいる一方で、黙ったままの人もいる。話し合いの場を用意しても、一握りの人しか発言しないことは、よくあることだ。気をつけなければならないのは、黙っているからといって、意見がないわけではないということだ。考えていること、心に浮かんだことがあっても、「言わなくてもいいかな」と口をつぐんでいるだけかもしれない。こうした状況が生じる背景にあるのが、セーフティの欠如である。
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文=豊田光世 企画・編集=一般社団法人デサイロ

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