奈良:Bone Flowerの先駆けとなる作品を作ったのはもう7年前になるんですが、建築の業界ではすでに設計のソフトウェアの活用やプログラミングによる製作がすでに行われていました。私もコンピューターが出す設計図を3Dプリンターでそのまま形にするのではなく、それを自分の手でつくることにチャレンジしてみたのですが、数式通りの精度が高い設計図を形にすることは期待したほど作り甲斐のあるものではありませんでした。
そこで最近では、わざとテクノロジーがバグを起こすような条件を与え、揺らぎのような出力からリアルなものが見通されるようなことに取り組んでいます。
谷本:誰もがAIを使えるようになった今、AI活用では全部同じような解になってしまう。人間がいかに介在してコモディティ化を避けていくか、それはビジネスパーソンたちにとっても興味深いテーマですよね。奈良さんはバグを受容しながら、どうやって価値を上げていこうとされていますか?
奈良:感情をのせることですね。陶芸で生身の土に対処するのには、ある程度、感情のコンディションが整っていることが大事なんです。たとえば私が悪い感情を抱いているときに作ったBone Flowerは、美しい花ではなく不格好なブロッコリーのようになってしまう。これは私だけかなと思っていたら、同業の友人の間でもメンタルのゾーニングをきちんとしないと良いものはできないよねと話題になっていました。
谷本:メンタル、感情といった、テクノロジーにはない人間の要素。興味深い視座です。さて、桑名さんが企画されたPerfumeの展覧会もまた、テクノロジーと人間の力が融合する集大成のような展示でしたが、どのような意図で企画されたのでしょうか。
桑名:Perfumeはただの音楽ユニットにとどまらず、多くのデジタルクリエイターやフォロワーを生んだ、大きな影響力をもつ存在でもあります。クリエイターたちのひとつの結節点=NODEともいうことができます。
Perfumeのパフォーマンスは一見、テクノロジーによりすべての演出がコントロールされているように見えますが、実はセンシングの精度などテクノロジーにはまだ足りないものがあります。それをステージで完璧な状態として披露するため、彼女たちは高い身体性を用いてテクノロジーに合わせているんです。
彼女たちが完璧なタイミングで完璧に動くことを信じたプログラミングが行われ、彼女たちもまたテクノロジーがそう振る舞うことを信じて動く。すごくヒューマニティーに溢れた繋がりがあることに僕自身もすごく感動しました。「お互いが理解し、望み合いながら繋がっていく」というあり方は、これからの時代に向けてのヒントになるかもしれないと思いながら展示をつくりました。