職人技の祭典ホモ・ファーベルで見た、ラグジュアリーの価値の源泉

世界各地のアトリエが制作した刺繍パネルに彩られた「誕生」室。(C)Michelangelo Foundation

世界各地のアトリエが制作した刺繍パネルに彩られた「誕生」室。(C)Michelangelo Foundation

3人の才能と世界の職人技が最も際立っていた場所が、この展覧会のためにミケランジェロ財団が特注した刺繍作品群で彩られた「誕生」の空間。四角い中庭を囲む回廊には、イタリア発祥といわれる「ガチョウのゲーム(すごろく的なボードゲーム)」に着想を得てピークが描いたグラフィックアートをもとに、世界各地の20のアトリエが独自の解釈と素材を取り入れて制作した60の刺繍パネルが展示された。

回廊の柱には3D印刷でつくられたピンク色のリボン状彫刻が施され、天井にはスパンコールで装飾された同系色のタペストリーがかかる。サイコロで運命が決まるゲームは、不確実な人生の旅路を象徴する。「思い入れを感じる空間」だとグァダニーノは言う。

ホモ・ファーベルが広げる「職人技の裾野」

会期中はヴェネチアの70のアトリエとも連携し、送客を促進。写真は市内に工房を構えるセネガル出身のガラス職人、ムライェ・ニャング。(C)Maki Nakata

会期中はヴェネチアの70のアトリエとも連携し、送客を促進。写真は市内に工房を構えるセネガル出身のガラス職人、ムライェ・ニャング。(C)Maki Nakata

若手職人の活躍には、ネットワーク構築が大事だというグァダニーノは、「ミケランジェロ財団は、ホモ・ファーベル期間中に限らず、職人、デザイナー、収集家らをつないでいる」とその活動を評価する。

例えば、財団の11の基準をクリアした世界の職人のデジタルディレクトリを作成し、一般ユーザーやデザイナーが直接職人にコンタクトをとれる仕組みを構築したり、若手職人が熟練職人のもとで修業する報酬付き見習い制度を実施したり。ホモ・ファーベルでは、工芸やデザインを学ぶ学生を来場者ガイドに採用している。さらに、リシュモングループの新会社ヴィア・アルノを通じて、職人に対する市場開拓と販促支援サービスの展開も始めた。

ホモ・ファーベル展には、職人がビジネスを振興させるためのコミュニティをつくる狙いがある。工芸には本物である強さがあり、社会環境文化の持続性の点で市場における競争優位性がある。一方で課題もあり、「多くの職人は起業家でもあり、ビジネスを管理し、自分の仕事を成り立たせなければならない。市場や社会とのコミュニケーション能力も必要」と、財団のカヴァリは言及する。
ユーメン・ルーによる3D刺繍の実演。(C)Maki Nakata

ユーメン・ルーによる3D刺繍の実演。(C)Maki Nakata

手仕事の存続に対する本当の脅威は、技術や機械ではなく、丁寧につくられたものの価値や、ものづくりの意味に対しての「無知」にある。「だからこそ私たちは、職人を前面に出し、価値を与え、認知を高めるために活動しています」とカヴァリ。

職人技と表裏を一体とするラグジュアリーブランド。そのグループ傘下の財団だからこそ、匠の技と工芸に対する理解を促進し、コミュニティの裾野を広げる活動に、情熱をもってコミットしているのだ。

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ナカタマキ◎記者・プロデューサー。世界各地を移動しながらグローバルサウスの視点を発掘し、インサイトを発信する。旅、アート、デザインなどの領域の多文化コラボレーションプロジェクトのプロデュースも手がける。

文=ナカタマキ

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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