動き始めた新潟県 様々な評価の仕組みとバックアップ
加えて、いま新潟が「再発掘」されている背景には、行政の力も大きい。やや保守的な県民性もあり、どちらかというとこれまで発信力の弱かった新潟だが、食をツーリズムの起爆剤として県が推進し始めたことで、食のシーンは変わりつつある。例えば、2023年には「新潟ガストロノミーアワード」が開設された。これは日本の各地域に先駆けて、地域の食文化を体現したレストランやシェフを表彰するもので、新潟の食に関わる産業全体を盛り上げることを意としている。
また2024年9月には、「We're Smartジャパン 2024年度トップ10 アワード」が催され、「ベストベジタブルレストラン日本」TOP10が日本で初めて発表されたのも新潟だ。
「We’re Smart Green Guide」とは、2013年にベルギーで創刊されたレストランガイドで、世界49か国1500以上のレストランを評価し、毎年、「世界のベストベジタブルレストランTOP100」を発表している。ユニークなのは野菜や果物をメニューのベースとしたお店を評価している点だ。これはサステナブルで健康的な食事を推進するためのプラットフォームで、最近のプラントベースへの流れを反映したものともいえる。
新潟県観光協会は、「トップ10の発表の場として新潟県を選んでいただき光栄。新潟県はガストロノミーに力を入れて取り組んでいる。地域の風土や歴史、文化を料理で表現するガストロノミーは観光の重要な要素。これからも新潟の風土で育った野菜や果物を大切にしながら、新潟を世界に発信していく」と語った。
世界中からフーディーが訪れる和歌山の予約困難店
4位の外苑前の有名店「フロリレージュ」は、麻布台ヒルズへの移転を機にプラントベース(植物性ベース)のコース料理にがらりとスタイルを変え、話題となった。さらに今回日本最高位だった和歌山「Villa AiDA」の小林寛司シェフは、「世界的な肉ブームを経て、食のメインストリームは確実にプラントベースに移行していると思う。レストランにおいても、自然と人を繋げた健康的な料理はこれからもっと重要な役割になる」とコメント。
和歌山の片田舎にありながら1日1組限定の超予約困難店である同店では、自家製野菜をメインに使った彩り豊かで独創的な料理を提供。独立して25年以上だが、注目されるようになったのはここ最近で、それまで「都会で活躍するシェフをまぶしく眺めていた」という。
いまや世界中からフーディーから食べるためだけに和歌山にまで足を運んでいる。それも食べる人の心を整えるようなローカル・ガストロノミーが注目されていることの表れだろう。
2位には、里山十帖にあるレストラン「里山十帖 早苗饗SANABURI」ランクイン。桑木野恵子シェフは、昨年、初代「ベスト女性ベジタブルシェフ大賞」として世界ナンバーワンに選ばれた。「新潟で開催されたことが誇らしい。里山の中に11年住んでいるが、自然環境とともに暮らせていることが幸せ。これからも環境やサステナビリティのことを考えて料理を作っていきたい」と晴れやかな笑顔で語った。 地元の生産者を頻繁に訪れ、自然と関わり合いながら里山を料理に表現する桑木野氏。オーストラリアなど海外を渡り歩いた度胸と流ちょうな英語で、新潟の食について生き生きと語る桑木野氏は、日本の女性シェフ像をアップデートしてくれるアイコンともいえる。後進の女性シェフにも大きなインスピレーションを与えるに違いない。
この賞のユニークな点は、ヴィ―ガンやベジタリアンには限定していない点だ。実際、ヴィ―ガン・ベジタリアンとまではいかなくても、野菜中心の食事を好まれる方、あまりお肉を食べられない方は筆者の周りでも相当いる。そうした方々にとって、お店選びの参考となるだろう。いまや「健康的」「サステナブル」であることも、レストランを選ぶ重要な指標なのである。