古民家宿で小さな地域経済圏、観光地化しない理由

保要佳江|LOOOF代表取締役

一棟貸しの古民家宿「るうふ」を展開するLOOOF。手がける保要佳江は、「里山文化こそ価値の源泉」と語り、無理に観光地化することなく、小さな地域経済圏を増やしている。


築100年を超す古民家に、今日もあかりが灯る。縁側に腰をおろし、焚き火のゆらめきを感じながら、暮れゆく空を眺める。都会では体験できないノスタルジックで穏やかな時間を提供するのが、一棟貸しの古民家宿「るうふ」だ。2014年の創業から約10年で、山梨、千葉に13施設まで増やし、2025年には30軒超を目指す勢いだ。

各宿は建物の特徴を生かしてリノベーションされ、周辺環境を生かしたアクティビティも清流遊びの「澤之家」、海遊びの「波之家」と個性豊か。いわゆる観光地でないにもかかわらず、20~40代の家族連れ、ペット連れの旅行者を中心に口コミで広まり、稼働率は平均50%以上。リピーターも多いという。
ワイン産地・勝沼の和洋館「蔦之家」。るうふの古民家宿の多くは築 6100年以上、200平米ほどの広さで、3世代で宿泊するゲストも多いという。

ワイン産地・勝沼の和洋館「蔦之家」。るうふの古民家宿の多くは築6100年以上、200平米ほどの広さで、3世代で宿泊するゲストも多いという。(c)LOOOF

「Airbnbの普及、コロナでバケーションレンタルのニーズが増えたことが追い風になりました」と語る保要佳江は、最初の宿を構えた山梨県笛吹市芦川町の出身。国際協力を志望して海外に憧れていたころ、「何もないけれど心地よい」地元の魅力に気づき、自らそれを守ろうと立ち上がった。宿ができ、人流ができる。しかし、10年でどんな変化があったかと聞けば、「村の人たちは活性化ではなく、日常が続くことを望んでいて。それもあって土着性を大切にしています」と、現実を見つめる。

利用者視点で、着実なインパクトを

日本は人口減少で空き家が増加しているが、貴重な木材を用い、伝統工法で建てた古民家の数は限られている。通常の物件情報には出てきにくいので、足を使って探し回る。見つかっても、相続問題で活用できなかったり、建物の状態が悪かったり。宿にするための条件をクリアできるのは「3~40軒に1軒」程度だという。

いい物件に出会えたら、購入または賃貸して、社内の施工・大工チームがリノベーション。約半年をかけて宿に再生する。「自分が泊まるなら、という視点で、水回りは特にきれいにします」と保要。地元の野菜や肉をいただく食事は、「周囲に飲食店やコンビニがない集落の宿では必須」とこだわるのも、実体験あってこそだ。サウナや水風呂を備える宿もあるが、宿泊者の反応が良いのは焚き火、釜戸といった“火の体験”だという。
どの宿でも、囲炉裏や焚き火な ど“火を囲む時間”を提供する。

どの宿でも、囲炉裏や焚き火な ど“火を囲む時間”を提供する。(c)LOOOF

「るうふ」の展開はフランチャイズ方式で、各宿に加盟金と初期投資約3000万円を出すオーナーがいて、LOOOFはリノベとホテル運営を請け負う。例えば、思い出の残る家を活用したい持ち主がオーナーとなり、「約5年で投資回収する」ケースもあるという。運営スタッフは、清掃や食事、体験提供からPL管理までのすべてをひとりで行うため、人材の採用と教育のコストはかかるが、質を保ちながら拡大することを重視している。

こうした評判が広がり、有休不動産の利活用に悩む行政との提携も始まっている。24年7月には、前橋市から相談を受けて手がけた6棟の宿からなる宿場町「赤城宿」を開業した。その土地の風土、暮らしが宿る“生活文化財”をいかし、集落の灯りを増やしていく。「るうふ」がつくる一つひとつの地域経済圏は小さいが、同時多発的に広がるインパクトは決して小さくないはずだ。

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保要佳江◎1987年、山梨県生まれ。2011年明星大学卒。留学から帰国後、地元集落の価値に気づき、古民家を活用した“村おこし”を始める。2014年に現「るうふ」を立ち上げ、2017年に株式会社化し、現職。

文=鶴岡優子 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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