障がい者たちと街へ出よう そして「福祉=まちづくり」へ
クリエイティブサポートレッツ|久保田 翠
「街に出たのは、知的障がいのある人に接したことがある人が少ないから。浜松の街は人が少なくなったとはいえ、確実に人に出会う機会がある。我々から出て行き、まず彼らの存在を知ってほしい」
JR浜松駅から800mの中心市街地に「たけし文化センター連尺町」はある。2018年に設立された3階建ての同施設には、障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァがあり、毎日20人ほどの重度の知的障害のある人が活動している。ここでは、一般的な障害福祉施設で行われているような作業がない。クリエイティブサポートレッツ理事長・久保田翠は、「一日音楽を聴いている人、ゲームをやっている人、寝ている人などさまざま。障がいや問題行動をそのまま肯定するというのが私たちの活動理念です。そして、なるべく街に出て、街にかかわりをつくるようにしている」と話す。
同施設には文化センターとしての機能もあり、宿泊できるゲストハウスや居住できるシェアハウスもあり、時には「クラブ・アルス」「玄関ライブ」と称してクラブやライブハウスにも変わる。1泊2日滞在する「タイムトラベル100時間ツアー」や「哲学カフェ」が企画され、「のヴぁてれび」というYouTubeチャンネルで日々の模様の発信もしている。福祉施設がサービス対象者以外の人たちの居場所となれば地域の社会資源は増え、引きこもりや孤立、コミュニティなどの社会課題の解決にもつながると考えている。久保田らはこれを「福祉施設の社会資源化」と称して、10年から取り組んできた。
同団体設立のきっかけは、久保田が1996年に重度の知的障害のある息子、壮を出産したことだ。息子・壮は全介助と呼ばれる最重度の知的障害がある。壮と家族が自由に、安心していられる居場所づくりができないかと、2000年に同団体を設立。「たけしは今、文化センター内のシェアハウスでヘルパーさんの支援を受けながら生活しています。日中はアルス・ノヴァに通い、毎日街を歩き、買い物をし、ゲームセンターに遊びに行く。厳格なルールが守れなくても、音やふるまいに逸脱するところがあっても、街で生き生きと生活しています。多様性のある『街』だからできることでもあります」(久保田)
久保田が今注力して取り組むのは「まちづくり」だ。20年から、福祉とまちづくりの担い手が連携し、対話を重ねる「浜松ちまた会議」を開催。福祉、医療、建築、金融、NPOなど約30団体で構成するネットワークだ。目的は「福祉を軸にしたネイバーフッドシティ構想」の実現だ。「ネイバーフッドシティとは徒歩15分圏内に『私』が幸せに生きるためのセーフティネットがあることを指します。そこで重要になるのは結局『人』。人が人をケアし、幸せに、健やかに生きるために福祉があるのならば、今、福祉を実現する場として『街』を考えてみたい。『福祉=まちづくり』という価値観がつくり出せたら、福祉の可能性を広げ、街のあり方をダイナミックに変えていけるかもしれませんから」