小さな町から全国へ 徳島発「地方子ども支援モデル」
うみのこてらす|川邊 笑
徳島県徳島市内から車で1時間半、人口約3600人の町、海部郡牟岐町。その場所に、川邊笑が代表理事を務める、うみのこてらすの活動拠点がある。川邊の出身地であるこの地で、学校に行きづらい小学生から高校生向けの居場所「われもこう」、中高生を中心とした誰もが気軽に立ち寄れる居場所(学び支援)「ゆあぷれ」、子どもや若者、大人までほっと一息つける食事の場「てらす食堂」の活動に取り組んでいる。
「同級生は30人。中学3年生までクラス替えなしで、クラスの友達は部活の友達であり、塾の友達でもあります。豊かな自然に囲まれてのびのびと生活していた一方、教育の選択肢や人間関係は狭く、私は生きづらさも同時に感じていました。小さなコミュニティの良さもありますが、学校や家がしんどくなったら、ほかに行く場所や選択肢が少なく、一歩間違えると居場所を失ってしまうこともあります」
川邊が挑んでいる社会課題は、「生まれ育つ環境や地域における機会の格差」だ。川邊がこの地で活動を始めたのは、2021年3月から。川邊は教師を目指し筑波大学に通っていた時に、困難を抱える子どもたちへの学習支援団体でのボランティアをしていた。その際に出会った小学校5年生の子どもから出た一言「生きている意味あるんですかね」。そして、同時期に、実家に帰って地元の友人のなかにも「つらくても誰にも頼れなくて、ずっとひとりだと思っていた」という声があることを知ったことがきっかけだった。
「都市部でも地方でも、自分ではどうしようもないことでしんどい思いをしている子どもたちがいます。都市部には数多くのNPO団体があり、行政の支援も整備されつつあります。でも地方には支えていく仕組みがまだまだ少ない。小さく人数が少ない地域には、NPO、行政、企業も事業化するには非合理的で届きません」(川邊)
徳島県でも、ここ数年で不登校の数は倍増、虐待の数も増加しているという実態があるが、支援が足りていない現実がある。子どもを支援するNPOの数は東京と地方では約3倍の差があり、10万人に対するフリースクールの数も徳島は東京の約3分の1の数しかないという。
川邊らは現在、週に1度だった居場所の開催を週3回に増やし、地域差をなくしていつでも使えるオンライン学習支援体制の構築を行うべく活動を拡大している。そして、5年後に向けたビジョンとして「本人以外の理由で人生を諦める徳島県内の子どもをゼロにする」を掲げる。県内3カ所に中核となる子ども支援拠点の運営、小さなこども食堂と連携したオンライン学び支援を計画中だ。川邊はそれを「地方子ども支援モデル」と定義し、全国へ広げることを考えている。
「日本の地方自治体の約56%が人口3万人以下だといわれています。人口3万人以下の子ども支援施策に関する政策提言や、全国47都道府県に1つずつローカルパートナーをつくり、10年かけて実現させたいです」