2012年以降の自民党政権の経済運営が優れていたとすれば、どうして石破の最初の大きな一手が新たな景気刺激策の取りまとめなどということになるのか。今回の対策は、成長を下支えし、物価高の痛みを和らげるためだという。
これは皮肉なことでもある。1990年代後半以来、日本の歴代政権はデフレからインフレへの転換に取り組んできた。そして現在、日本の消費者物価の上昇率は2.5%前後になっているが、家計や企業はむしろよろめいている。
原因は慢性的な生産性の低さだ。日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中、30位に低迷している。その結果、賃金の増加は一部では33年ぶりの上げ幅になってはいても、物価の上昇に追いついていない。
石破はこの問題にどう対処する計画なのか。それについて石破は語っていない(編集注:4日の所信表明演説では、賃上げに必要な生産性向上のための施策として、リスキリングなど人への投資の強化、事業者のデジタル環境の整備などを掲げている)。
日本政府は毎年、補正予算を組むのは得意でも、国の競争力を阻害しているややこしい規制を改めるのはそれほどうまくない。石破政権はまだ発足したばかりだとはいえ、日本のアニマルスピリッツを復活させるための漠然としたプランすらまだ示していない。
それは示されないままになる可能性もある。安倍や岸田は長く首相を務めたが、日本の政権は概して短命だ。これまでのところ、石破は日本の首相の「回転ドア」を避けるのに必要な手腕なり手管なりを発揮していない。石破がそのドアに巻き込まれる日は、日本のエスタブリッシュメントが思っているよりも早く訪れるかもしれない。
石破はトラスと違ってレタスよりは長く持つだろう。とはいえ、数カ月後、もしかすると1〜2週間後に、世界の投資家が日本の「新・新首相」を知ることにならないとも限らない。
(forbes.com 原文)