レトルト食品のモジュール化、着想は「宇宙食」
「端緒は『宇宙食』でした」。辻調理師専門学校 教育研究センター長の山田研氏は話す。「宇宙における未来の調理師の役割は、限られた食材の中で栄養豊富でバラエティ豊かな食事を提供することで身体的・精神的な健康を確保し、ストレスの多い宇宙空間でのQOL(生活の質)を維持向上させることです。
月面で生産予定の野菜は、トマト、レタス、キュウリ、米、大豆、ジャガイモ、サツマイモ、イチゴのわずか8品目。少ない食材から多様な料理をつくることができるのは、料理人の技術と工夫です。今回のレトルト半製品はそこから着想しています。様々な半製品を食材として提供することで、料理人の工夫次第で様々な料理を作ることが可能となるからです。
また、シカやイノシシなど捕獲後は廃棄されることの多い野生鳥獣も食材として利用しました。野生鳥獣の肉を、精肉やペットフードとしてのみならず半製品としてレトルト加工すれば、誰にとっても扱いやすく食べやすい食材になる。ジビエの利用率が高まれば結果的に野生鳥獣の廃棄率の削減に貢献できますし、被害拡大の抑止にもつながる可能性があると考えています」
東洋製罐グループホールディングス イノベーション推進室長の三木逸平氏はこう言う。
「弊社は100年以上、容器を作り売り続けていますが、同じ分だけ、様々な『中身』を容器に詰めてきた技術と知見があります。このプロジェクトも『製品開発ではなく研究開発』を目指しています。つまり、培ってきた『ノウハウ』を販売したいのです。モノ売りからの脱却と言ってもいいでしょう」
同社は実際にこの『ノウハウ』を活かし、大手外食チェーンストア「吉野家」と、常温保存できるレトルト製品を共同開発したり、植物肉を利用した新しい食品開発や、ジビエを利用した地方創生支援も行っている。
三木氏はこうも話す。
「今回の『+Recipe プロジェクト』で取り組んだのは、いわばレトルト食品を『モジュール化』することです。
例を挙げるなら、『シカ肉の煮込み料理』のモジュールを構成するパーツを別のモジュール『豚の煮込み料理」やその他の料理のモジュールと交換できるようにする。そうすれば、料理としてのバリエーションを大きく広げることができるようになります。しかも、料理人が自らの工夫を加えて料理を完成させる余地もありますから、店の個性を出すことも可能です。
今一番の課題は、こうしたノウハウを共有してくださるパートナーの獲得です。食品製造そのものは、われわれ東洋製罐グループも辻調理師専門学校も担うことはできませんから」