そもそもレトルト食品は、一般消費者が手抜きしたい時に利用する加工品というイメージがある。しかし本来、「レトルト」は缶詰などの殺菌工程である加圧加熱殺菌の技術を指す。
同プロジェクトでは、そのレトルトを「調理技術」の1つと捉えて製品開発。レトルト加工したものを「半製品」として活用することで調理工程を圧縮しつつ、高級レストラン・クオリティの味を再現することにチャレンジした。調理業界の旧来の常識に一石を投じたともいえる。
ジビエ料理も10分かからず
たとえば本来、仕込んでから低温で長時間かけて仕上げる「ジビエの煮込み料理」。同プロジェクトで開発されたレトルト製品を使えば10分程度で仕上げることができる。さらに、使うレトルトは「半製品」であるため、料理人が自らの工夫や個性を加えて料理を完成させることができる。常温で長期保存も可能だ。
辻調理師専門学校 東京・西洋料理教員の秋元真一郎氏は、9月23日に行われた試食会で次のように話す。
「最近では、缶詰や冷凍食品を調理現場で利用するケースも増えてきました。クオリティが上がってきたことに加え、食材の仕入れや廃棄の課題が背景にはあると考えています。
今回のプロジェクトでは、あえて完成した一品料理ではなく、素材としてのベストな状態を常温長期保存できるプロダクトを検討しました。こうした製品があれば、料理人が、ニーズに合わせ、素材として無駄なく手軽に使うことができるようになるからです」
たとえば、「タルトタタン(抜き型にバターと砂糖で炒めたリンゴを敷きつめ、上からタルト生地をかぶせて焼くフランス菓子)」用のりんごの缶詰は、レトルト前に「缶ごと焼く」という、調理師ならではの斬新なアイデアから生まれた製品だ。タルト生地に缶詰のタタンを乗せ、バニラアイスやミントを添えれば贅沢なデザートになる手軽さもある。