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経営・戦略

2024.10.08 10:15

極北網走の農場 X アサヒの挑戦 「畑で米栽培」でたわわな稲穂

低メタン、低コストの米づくりに向けて、農林水産省のプロジェクトが始動


そんななか、アサヒバイオサイクルが農林水産省「国内産輸出用米などの栽培技術のマニュアル化及び輸出可能性の検討・調査プロジェクト」に参画し、北海道・山形県・福島県・茨城県・埼玉県・岐阜県・鳥取県・岡山県の8生産者と共に、水田を使用しながらも水をなるべく使わない米の栽培方法「節水型乾田直播」の実証実験を始めた。

この栽培法によればメタンを9割削減できる見込みだ。また、「乾田」での栽培は水田栽培と比べて多くの工程を割愛できるため、生産コストも6割削減できる見込みという。収穫された米は、国内で食糧供給が不足しているグローバルサウスなどの新興国に輸出もされる。

この「節水型乾田直播」で有効といわれるのが、アサヒバイオサイクルが提供するビールの製造工程で発生する副産物「ビール酵母細胞壁」由来の農業資材。植物に与えると、植物本来の免疫力を高めるとともに、土壌を還元することにより有用菌優勢の微生物叢に変化させるという2つの機能を持っており、まだ栽培技術が確立していない中、この資材が厳しい生育環境において、稲の生育促進や米の収穫の成果につながっているという。

きっかけは、ビール会社が網走福田農場と始めた「陸稲」の実証実験


このプロジェクトのきっかけとなったのは、北海道・網走にある福田農場。畑に稲の種子をまいて栽培する「陸稲(りくとう)」という栽培方法でづくりにチャレンジしている。低温な気候のため稲作は無理とされていた網走で、「ビール酵母細胞壁」由来の農業資材などを使い、高品質な米づくりに成功したことで注目を集めた。

以下、アサヒグループのオウンドメディア「ハレの日、アサヒ」から、福田農場当主 福田稔氏、アサヒバイオサイクル・アグリ事業部長上籔寛士氏の言葉を、編集の上引用する。

「ビール酵母細胞壁の資材は稲の免疫力を高め、根の成長を促進するので、根張りが向上し、発生した細かな根から植物の成長に必要な土壌中の栄養分を多く吸収することができます。これを使って米ができたのは感激」(アサヒバイオサイクル・アグリ事業部 上籔寛士氏)

「ビール酵母細胞壁由来の資材を知ったのは2018年頃で、これまでも小麦やジャガイモに使っていました。

その後、陸稲を始めて3年目の2020年が転機でした。陸稲に向いているらしいと聞いて品種を『ななつぼし』に変え、そのビール酵母細胞壁由来の資材などを使いはじめた。初めて稲穂に実が入って、米ができたんです。まさに“実るほど頭を垂れる稲穂かな”の状態になった畑を見てとてもうれしかったです。コンバインもなく1人で手刈りして、知り合いの農家さんに精米してもらいました。とてもおいしいお米でした」(福田農場当主 福田稔氏)

2021年の子どもたちとの試食会では感極まって涙したという福田氏。今後の夢は、子どもたちに給食で「福田米」を食べてもらうことという。
(「ハレの日、アサヒ」より)
(「ハレの日、アサヒ」より)
アサヒグループが取り組む、「自社製品の製造工程で生じた資材を使い、水なしの稲作を極北の地で」の新施策。ビール酵母細胞壁由来肥料の活用で稲作の北限が北上し、同時に米生産コスト削減も叶えば──。

彼らの施策が、未来の米不足問題と米価高騰問題を防ぐ上での一助たらんことを、そして温暖化という地球全体の問題に灯火を掲げてくれることを、大いに期待したい。





※官民連携による低メタンの米作りには、ほかにもゼンショーホールディングス、伊藤総本家、豊田通商はじめ多数の企業が参画している。

※水稲農家も、一時的に水田から水を抜く「中干し」などを通じてメタン生成菌の活動を抑える努力を始めている。<ヤンマーマルシェがNTTコミュニケーションズとタッグを組んだ「水稲栽培による中干し期間の延長とJ-クレジット(温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度)申請」スキーム についてはこちら >

文・構成=石井節子

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