サイエンス

2024.09.23 14:00

着信はないのに震えた気がする、スマホが引き起こす幻覚症状「幻想振動症候群」

何が「幻想振動症候群」を引き起こすのか

幻想振動症候群についてはさまざまな科学的説明が試みられているが、多くは神経科学に基づいている。英医学誌BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に2010年に掲載された論文では、感覚器官から入力された感覚信号を、脳が誤って解釈した結果である可能性が示唆されている。

「膨大な量の感覚入力に対処するため、脳は期待に基づいてフィルターやスキーマを適用する。これは仮説誘導型探索と呼ばれるプロセスだ」と論文は説明する。平たく言うと、私たちの脳はしばしば受け取る感覚情報の量に圧倒され、適切だと判断した解釈で処理しきれない情報の空白を埋めようとする。そのため、スマホが定期的に振動していると、脳は実際には振動していない場合にもそれを予期するようになる。

2013年にComputers in Human Behaviorに掲載された論文には、また別の説得力のある説明が提示されている。この研究では幻想振動症候群を、テクノロジーに関連した広範な不安症状の一種に分類し、「iDisorders」と名づけた。機器への依存度が高まるにつれて、その機器との関わりにまつわる不安がさまざまな形で現れる。幻の振動もその一つだというのだ。

この考え方をいっそう裏づける研究結果が2015年、同じくComputers in Human Behaviorに発表された。「私たちと現代のテクノロジーとの一般的関係は、相当なレベルの不安につながる」と論文は指摘している。「たとえば、メールやソーシャルメディアへの投稿、電話やテキストメッセージなど、新規の知らせを期待して待つとき、私たちは不安になる。こうした不安はさまざまな弊害を引き起こすが、その一つで、少なくともほとんどのユーザーにとっては無害なものが、幻の振動だ」

大局的に見ると、幻想振動症候群は心配しすぎるほどのものではない。非常にありふれた経験であり、多くの人々にとっては時間とともに目新しさが薄れていく現象だ。ただ、ここから浮き彫りになる、より大きな問題もある。それは人とテクノロジーの関係がますます密接になっているという事実だ。

幻の振動は比較的無害かもしれないが、私たちの日常生活にスマホがどれほど深く浸透しているかを如実に反映している。それは、ほぼ全能の域にまで達している。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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