ここ10年間、エンタメ/カルチャー界を席巻してきたジャンルがお笑いとラップだったことからも、それは証明される。なぜなら、その両ジャンルほど、先に挙げた3つのポイントを突き詰めてきた人たちはいないからだ。いよいよ言葉が届きづらくなってきている現在の状況下において、喋りそのものを技術的に追求していくことで、時代を象徴する芸として存在感を高め多くのスターを生んできたのがこの2大ジャンルなのである。瞬発力に満ちた素早い展開、瞬間的に繰り出されるフレーズの応酬、現実との境界を曖昧にしながら展開されるキャラ設定。年々巨大コンテンツ化してきたM-1グランプリやキングオブコント、あるいはMCバトルやヒップホップフェスといった場での表現を振り返ってみると、そういった「スピード」「バイブス」「パンチライン」という3つの係数がどんどん高いレベルで組み合わさって進化してきていることがわかる。
なかでも、生成AIが浸透してきている昨今、「バイブス」の重要性がますます上がってきている。元々ヒップホップやレゲエミュージックを起源とする言葉で、「雰囲気」「ノリ」という意味をもつが、そこから転じて「人間らしさ/その人らしさ」を指し示すワードとして価値が高まりつつある。スピードとパンチラインを駆使し、その人でしか出せないバイブスを絡めコミュニケーションすること──アーティストにせよブランドにせよ何にせよ、これからの時代に勝つのは、そういった人たちなのだろう。
つやちゃん◎文筆家、プロデューサー。一般社団法人B-Side Incubator理事。さまざまな書籍やメディアで執筆活動を展開、企画や監修も手がける。最新刊『スピード・バイブス・パンチライン ラップと漫才、勝つためのしゃべり論』(アルテスパブリッシング)が話題に。